和の家について
A:こんにちは。今日は和の家について、志水さんに聞いていきたいと思います。志水さんが和の家をよく作られるようになったのはいつ頃からなんですか?
S:日日とを立ち上げる直前まで働いていた工務店で、マーケティング戦略的に和のデザインを強く意識した高性能住宅を設計しました。その頃からかな、と思います。
A:意外と最近なんですね。それまではいろいろな会社で、いろいろなタイプの家を作っていたと言うことですね。
S:ええ、まあそうですね。でも僕にとっては安藤忠雄も和ですし、京都会館も、鎌倉近代美術館も和だと思うんですよ。
A:ほー、なるほど。鎌倉近代美術館はピロティの上に建物が乗っていて、私はコルビジェの系列だなあ、と思うのですけれど、どのあたりに和を感じるのですか?
S:曖昧な内と外の空間の作り方かな、池の水が建物の中にまで入り込んでいる感じとか、、、そもそも、コルビジェの空間の作り方が日本的と言えるのかもしれませんけれど。
A:なるほどー。いきなり深い話。幼少期から日本的なデザインというものに心惹かれていたんですね。
S:そうですねえ。あとは高さのプロポーションが好きなんです。日本は椅子ではなく畳に座る文化で、視点がだいぶ低いんです。建物の寸法は全てそこから計算されていて、それが好きなんですよね。
A:この間、打ち合わせの合間に北鎌倉の東慶寺にいきましたよね。志水さんが尼寺ならではのスケールの小さいお寺の建築に嬉々としているのを見て、お連れして良かったと思いました。
S:あのお寺は良かったですねえ、僕の日頃の設計のプロポーションがリアルになっていて、間違いなく良い空間になるという実感がありました。自然と建物の関係も鎌倉ならではの雰囲気が感じられましたし。
そうそう、関係ないかもしれませんけれど、僕が続けている習字も、白と黒のバランス、構成が大事なんですよね。そういうのも日本的な考え方かなあ、と思ったりします。
A:ふーむ。
和に造詣が深い志水さんですけれど、鎌倉で考えている家というのはそこまでわかりやすい和に寄せ切ってはいないな、と思うんです。その辺りはどうですか?
S:京都は住宅の外観に多くの規制がかかるので、和の家にした方が結果的に綺麗にまとまるんですよね。だから和に寄せた、というのはありますね。
軒の出し方や、建物の外壁の色などにも規制がかかるんです。前の工務店では障子や格子などもよく使い、和の感じを出していました。
鎌倉ではそういう規制はないので、メンテナンスにあまりお金がかからず、僕がベストだと思う素材を使えばいいなと考えていて、それが木の外壁な訳です。さらに日本人が心地よいと感じる日本ならではのサイズ感や建物全体のプロポーションを引き出したいなと思いますね。
A:わかりやすい和のパーツを散りばめるのではなくて、もっと根源的な部分の和を目指すって感じなんでしょうか?
S:そうですね、そんな感じです。
A:街を歩いていると、外観は伝統的な和の建築ではないけれど、なんとなく心にスッと入ってくるデザインの家がある一方で、一見すると和ですけれど、腑に落ちないデザインの家もあって。それはそういう根源的な部分の違いから来ているのかもしれないですね。
和の家の定義に明確なものはないと思いますけれど、あえていうとしたら何ですか?
S:うーん、壁の色、塀、庭、水平強調、勾配屋根という要素が強いほど、和の家と感じるのかな、と思いますね。
僕は基本的にはずっと、和のプロポーションの美しさを追求しています。例えそれが縦に細長い3階建ての建物であっても、庇で水平感を強調したりしているのはそういうわけです。
A:ふむふむ。言語化していただくことで理解できてきました。
話は少しそれますけれど、伝統的な和の家って建築費が高い気がするのですけれど、それはどうしてですか?
S:技術の高い大工さんが、長い時間手作業でいろいろな細工を施して作るのが、現代における伝統的な和の住宅建築です。純粋に技術料や作業時間がよりかかっているのです。
A:木材の材料も高かったりしますか?
S:そうですね、床柱などには高価なものも多いですね。京都は解体した町家やお茶室から出る建具や柱が、中古品として少しお手頃な価格で流通しているのですけれど、こちらではあまり見ないようですね。
A:そのシステムはかなり面白いですよね。
S:昔の日本の民家は左官屋さんと大工さんと手伝いの人たちで作ることができるシンプルなものでしたね。土に関わる仕事をする人を左官、それ以外の木に関わる仕事をする人たちを大工さんではなく右官と呼んでいたそうですよ。
A:へー、右官、初めて聞きました。昔と言っても割と最近までは設備もそれほどないし、そんな感じに家づくりしていたのでしょうね。現代でそれを実現するのはなかなか難しそうですね。
S:そうですね。材料も地元の木はもちろん、地元の土を熟成させて壁に使うなどして、全てが地域で循環していたわけですけれど、そうもいかないですしね。
A:確かに。こう考えてくると、和の家と言っても昔ながらの民家から、茶室のような雰囲気のものまで幅は広いですね。あまり自分の中の固定観念で見ない方がいいのかなと思えてきました。
私は志水さんとお仕事をするまでは、和の家といえば壁の色や、障子や引き戸がついていることだと考えていました。でも、実はきちんと考えられた軒の低さや、屋根の勾配、庭や周りの自然との関わり方などが和を感じさせているということに、だんだん気がついてきています
その辺りがうまく皆さんに伝わるといいなあ、と思うんです。
S:ぱっと見のアイテムに惑わされずにね、笑
A:そうそう、そうなんです。外見だけでなく、もっと深い部分でしっくりとくるバランスを持った家が増えたら街はもっと魅力的になりますね。