好きな住宅建築ついて -その2-
S:ミースも好きですよ。ミース・ファン・デル・ローエ。
A:ファンズワース邸、私も好きです。エントランスまでのアプローチに特に惹かれます。
S:僕の作る家でも階段のこの感じを意識して作ってみたいな、と思っています。
バルセロナパビリオンは知ってますか?空間構成が本当にいいんですよね。水平に伸びる薄い屋根を十字の柱で8本で支える構造で、自由になった空間に石やガラスの壁が自由に配置されています。室内だけれど光が奥まで取り込まれ、外と中の区別がなくなるような感じ。
A:そうなんですね、バルセロナパビリオンは大理石などの素材に目がいっていましたが、よく見てみます。
S:あと、アメリカの西海岸のケーススタディ住宅とかも。
A:イームズ夫妻の家などですよね。
S:有名なのはイームズ夫妻ですけど、他にもいろいろな建築家が参加していますよ。未施工で終わったもの多いですが。第2次世界大戦後の住宅需要に備えて、経済的、効率的に量産可能な家のモデルを生み出すための運動でした。イームズハウスはなるべくローコストで建てられるように鉄骨、ガラスといったものも当時の既製工業製品でできています。
A:既製品なんですね。無骨だけれど素敵なのは、用の美だからなんでしょうか。
今の企画住宅みたいな感じかなと思っていましたが、、もっと深いデザイン哲学があるのですね。
そして、明るくて解放的。
S:そうですねえ。基本的には鎌倉でも古めのRC住宅などでケーススタディに通じるような家をお見かけすることがありますよね。海外のような雰囲気が魅力的です。
A:基本的には倉庫のようながらんどうの空間ですよね、そこに好みのインテリアで空間を作っていく。今なら、このケーススタディハウスのガラスをトリプルガラスとかにして、室内の暑さ、寒さ対策可能ですか?
S:できると思いますよ。
A:できるんですね、日本サイズに直したら、鎌倉や葉山の山の中にも似合いそうな住宅ですね。周りの自然と相性が良さそうな気がします。
S:そうそう、そうです。
鎌倉といえば、僕は鶴岡八幡宮の中にある近代美術館も大好きなんですよね。坂倉準三です。
僕はあの世代の建築がすごく好きだなあ。彼らの作る住宅も名作揃いです。
A:坂倉準三、前川國男、吉村順三などですよね。なぜあの世代は素晴らしい名作住宅をたくさんのこせたのでしょうか?
S:昔ながらの日本の建築のエッセンス、プロポーションなどをきちんと勉強して、日本という風土に合う住宅の美しさを追求されているからでしょうね。
A:うーん、なるほどー。
S:名の知れた建築家ではなくても秀逸なプランがたくさん生まれたのがこの時代です。
戦中戦後すぐは住宅供給難で規制がかかり、あまり大きな家が建てられなかったこともあって、いわゆる最小限住宅という思想が生まれました。コンペも頻繁に行われ、コンパクトな住宅のさまざまなプランが考えられていたのです。
A:そうなんですね。
S:僕は、当時のプラン集を見かけたら絶対買います。
A:この頃の設計に携わる人は、育つ環境で伝統的な日本の建築のエッセンスを体感していたでしょうし、勉強して知識をつけ、敗戦後は欧米の要素も取り入れ、変わりつつある生活に対応していったのかな。ちょうど良い感じに融合していった時代なのかも知れないですね。
S:清家清のもいいですよねー。特に「森博士の家」、平家に縁側、二間つづきの和室があって、LDKがちょこっとついている。この感じとかとても好きです。
森博士の家 外観と平面図
A:あ。本当だ。コンパクトなLDKと、広めの和室。どんな事態にも対応できそう。
S:結局はとても使いやすい、ということになると思います。
A:いいなあ、私がまさにこんなLDKと二間つづきの和室と縁側がある家に育ったんです。特に和室は、ある時は私と妹が遊ぶ空間になり、ある時は母の書道教室で子供たちがやってくる空間になり、たくさん親戚が来ればそこで宴会をすることもあり、夜は祖父母の寝室になっていました。生活の色々な行事に対応できていたなあ、と思います。
S:そうですよね。今はLDK信仰が強いですけれど、LDKより気にしておきたいのは家の中に置かれているものですよね、どういうもので身の回りを固めるか?1つ1つのものを吟味して選ぶということが、家の雰囲気に関わってくると思います。イームズハウスも、夫妻が世界各地の好きなものを集めたインテリアが空間を生き生きとさせていますよね。
A:情報に振り回されなければいいんですけれどね。小さな空間で厳選して暮らすとなると、選ぶという行為はすごく大事になってきますよね。一生使えるか?みたいな視点でものを選ぶことも多くなってくるかも知れない。
S:そうやって吟味している時間が楽しかったりしますからね。大量消費の時代がすぎつつあり、一人一人が吟味したお気に入りを少しだけ所有するという時代がやってくるとは思いますよ。
A:確かにそうかもしれないですね。