つぶやくふたり

talk about housing

A:こんにちは。前回からの続きで、パッシブデザインのお話をお願いします。特に5つの要素の中の3つ、日射取得、日射遮蔽、断熱についてお願いします。特に鎌倉では日射とどう付き合っていくのかが大事なんですよね。

S:はい。
まず日射取得ですが、冬の鎌倉は晴天率が高いので、その時の太陽のエネルギーを室内に取り込んで、暖房の負荷を減らしていくことが大事なポイントになります。ただ、どうしても建てる場所によってはうまく日射が取り込めないこともあるので、絶対にやらなければならないというわけではないですが、できるだけ配慮した設計をしていくというのが日射取得の考え方になります。

次に日射遮蔽ですが、夏の日差しを家の外側でカットするという考え方です。夏と冬では太陽の一番高いところにある角度(南中高度)がだいぶ変わってきます。鎌倉ですと夏は南中高度は80度くらい、冬は30度くらいです。夏は基本は庇(ひさし)でさえぎります。冬は庇より低い30度くらいの位置から太陽の光が入ってくるので、十分日射を取り入れることができます。
日射遮蔽の方法は、庇以外にも電動ブラインドやすだれなどがありますね。特に朝方や夕方は太陽の光は真東、真西の低い位置から日射が入ってくるので、庇で遮蔽ができず、こういうものの出番になります。

A:なるほど。

S:きちんと日射遮蔽することによって室内はかなり快適になると思います。クーラーをガンガンかけなくても大丈夫。ちなみに、西日が室内に入ってくる時のエネルギーはストーブ一台分とも言われています。クーラーをかけながらストーブをつけてる、みたいな状況ですね。

A:ははは、、、

S:エネルギーの話だけだったら西に窓をつけない方が良いとなりますが、西側の景色を楽しみたいなどの理由があれば、工夫して日射を遮蔽していく必要がありますね。

A:その話で思い出しました、先日内覧会で出かけた物件の西側にほとんど窓がなくて、家の中の閉塞感が気になったんです。あれは日射遮蔽のためだったのかな。。。

S:その家は住宅の密集したエリアに建ってませんでしたか?

A:まさに、住宅の建て込んだエリアに建っていました。

S:となると、日射遮蔽もさることながら、西側に隣家の壁があり見苦しいという判断で窓をつけなかったんでしょうね。開放感を得たいのであれば、不透明なガラスにして光だけを取り込む判断もできますね。

A:うーむ。考え方は人それぞれですからね。

S:ですね。
最後3点目、断熱です。熱エネルギーは高い方から低い方に流れるので、冬であれば室内の暖かい空気を逃さないように、夏であれば室内に外の暑い空気が入ってこないように断熱をします。
昔の家は断熱がなかったので冬は極寒でした。でも、当時は夏にいかに涼しく風通しよく暮らすかに重点がおかれていたので、それで良いとも言えます。今はテクノロジーも進歩して、冬も夏もいかに快適に過ごすかということが考えられるようになっていて、その基本にはきちんとした断熱がないといけないのです。

A:よくわかりました。夏と冬は冷房や暖房の力を最小限借りつつ、快適に過ごすというイメージができました。春と秋、季節の良い中間期はどう過ごせば良いんでしょうか?何も気にせず過ごして良いのですか?

S:そう思いますね。
パッシブデザインの基本的な考え方は、人工的なエネルギーは必要最小限にして、うまく自然のエネルギーを使いましょうね、という考え方です。その大前提には人間が快適であるということがあります。ですので、気候的に快適な中間期は窓を開けて風が抜けるのを楽しんだり、西日も暑くなりすぎないなら、沈む夕日を窓から眺めて良いと思います。綺麗な夕日があるのに、日射遮蔽が!と常に締め切っているのも変な話でしょう?

A:確かに。中間期をどう過ごすか、というのは各家庭やその家の建つ場所によっても違いますね。私の住んでいる鎌倉の山側は、気持ちの良い風が吹いていることが多いので、それを楽しみたいなあと思いますね。
何よりもまずは、すまい手が自分の家のパッシブデザインの考え方をよく理解しなければなりませんね。

S:ですので引き渡すときにレクチャーすることは多いですね。こういう時は窓を開けてください、とか、こうなったら閉めてエアコンかけてください、といったふうにね。

A:なるほど、家の取扱い説明みたいな感じですね。住んでいくうちに家族の個性が徐々に出てきて、家がその家族流に使いこなされていくというのが理想なんですかね。

S:そうです、そうです。まさに家を使いこなしていくことが大事なんです。
あと余談なんですけれども、秋の中間期って快適な時期だけじゃないんですよ。秋なのに昼間の気温が高めな日、最近多いですよね。秋の太陽の南中高度は低いので、庇で日射遮蔽がしにくいんです。そうすると室内に日射が入り込み、断熱性能の高い家は熱が逃げないのでどんどん室温が高くなるという現象が起こる時があります。この場合、もう室温を下げる方法は冷房しかなくて、、、。断熱性能の低い家は冷房のエアコンをつけていないのに、断熱性能の高い家がエアコンを運転し続けているということにもなりかねません。冷房期間がすごく長くなってしまう。

家の断熱性能が上がれば発生する問題の1つなので、高窓をつけて室内の排熱を促す工夫をしつつ、まずは日射をきちんと遮蔽していかなければならないですね。

A:ふむふむ、雰囲気でやっているわけではなくて、高性能住宅では本当に重要な意味があるのですね。

S:そうなんです、日射遮蔽をおろそかにして断熱性能ばかり上げたら、冬は暖かいけれど、中間期に暑すぎる。暖房費用は下がるけれど、冷房費用が格段に高いという矛盾が発生しかねません。

A:その辺りは、建てる人も、地域に応じた適度な断熱性能と、日射遮蔽の大切さを理解しておかないといけないんですね。室温を快適に保ち、冷房に頼りすぎない生活をするためにも日射のコントロールはすまい手が自分ごととしてマスターしていく必要がありそうですね。

S:周囲の環境も、建物が建て込んだり、逆に空き地になったりと大きく変化することも予想されますよね。そうなったら、変化に合わせて、日射コントロールのやり方も変えていかないといけない。ただ、言われたままをやるのではなくて、パッシブデザインの原理をわかっておくことはとても重要だと思います。

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