くらしに直結する高性能な窓の話
A:こんにちは。今日は窓の話をしていただこうと思っています。
先日までのパッシブデザインの話を伺っていると、日射遮蔽も、日射取得も、風や光を取り入れるのも窓に関わっていることに気がつきました、断熱性能も窓が一番の弱点だし、窓って重要そうだな、と感じています。アルミ、樹脂、木製の窓の違いや、窓をつける時に志水さんが考えていることなどを伺いたいな、と思っています。
S:はい。よろしくお願いします。
A:まず気になるのはお値段です。アルミ、樹脂、木製の窓の価格差ってどれくらいなんでしょう?
S:既製品のサイズであれば、アルミと樹脂で1.5割増しくらい、アルミと木製で大体2倍くらいの価格差かな、値段が上がる分、断熱性能はずいぶん良くなりますよ。アルミと樹脂の窓の断熱性能の差が大体3倍くらいです。
木製サッシメーカーにもいろいろあります。アルミサッシメーカーが対応してくれない大型のものをオーダーで作ったり、性能にとてもこだわっているところなどは価格も高くなります。
A:価格差もあるけど、性能の差はもっとあるってことですね。
木製サッシには下から上に開ける横滑り出し窓タイプなどが多い印象がありますけど、なぜなんでしょうか?
S:日本は障子に代表されるように引き戸がベースの考え方、ヨーロッパは引き戸ではなくてドア文化、その辺りの違いでしょうか?
A:ああ、そうか。あの木製サッシの窓はドアの一種に近いのかもしれないですね。
S:海外の家は、窓が小さく、ドアは内開き。真偽は定かじゃないですが、外敵からいかに身を守るかという歴史のため、とも聞きますね。
A:日本は紙の障子開けたら外、みたいな文化ですからね。
S:引き戸でゆるやかに外と中を隔ててきたんでしょうね。
A:ただ、引き戸はやはり隙間が大きくなりやすい?
S:そうですね、隙間は多くなりがちで、そこが高性能住宅との相性がよくないと言われるところですね。でも、最近は日本の樹脂サッシの引き違い窓も性能は随分上がってきてますよ。
A:そうなんですね。私が住んでいる今の家が窓が多いのですけれど、実際生活していると、日常で開ける窓は限られていて、多くの窓は実はFIX窓で良いんじゃないの?と思うことが結構あります。
S:そうなんですよね、窓の役割を整理するってすごく大事です。
明るい家がいいからと窓をたくさんつけていると、壁の量が減ってしまい、家具を置きづらいという問題も出てきたりする。良い窓は値段も高い。なぜそこにその窓をつけるのか、考えて配置をしていくというのはとても重要です。
A:志水さんと話していると「亜紀さんはこのスペースのどこに窓を開けますか?」と聞かれることが多いのですけれど、志水さんは常にそれは考えているんですか?
S:考えていますね。土地には見たい景色、見たくない景色が周囲にあり、建物の配置を決めながら合わせて窓の位置を決めていくんです。
A:うーん、難しそうです。
S:簡単ではないですけれど、基本は、その土地の長所をどう生かすかということに尽きるとは思いますね。
A:ふむふむ。家の外観の窓の位置も気になるんですけれど、その辺りはどう考えてますか?
S:設計士の中でも家の中から見た窓を重要視する人と、外から見た窓を重要視する人がいますけれど、僕はどちらかといえば中から見た窓を重要視します。家の中にいて、いかに心地が良いかということを考えたいので。ただ、あまりにいろいろな窓が点在していると外観の見え方に響いてくるので、その辺りは気をつけています。
A:なるほど。ちなみに、志水さんってFIXの窓ってよく使います?
S:使わなくはないですけれど、FIX窓は掃除問題がありますね。2階の高いところの窓をFIXにすると、どうやって掃除する?という話が出てきます。窓が開くのは掃除のためということもありますからね。
A:あ、そうかー。掃除か、忘れてました。海外製の滑り出し窓はぐるっと回って外側を家の中側にして掃除できるんでしたっけ?
S:そうですね。ロックを外すと、ぐるっと回ります。
A:家の中にいながら掃除ができるのですね、よく出来てますね。高いところの窓を掃除するのは、実際年に1回くらいかなとは思いますけれど、掃除問題は考えておかないと、ですね。
S:下屋に登れば窓掃除ができるようにしておくとか、バルコニーやキャットウォークで対応することを考えますね。
A:おお、親切な設計ですね。話は変わりますが、窓は現在も、アルミサッシが主流ですか。
S:普及率はアルミですが、新築に限って言えば、アルミ樹脂でできたの複合サッシが主流で、次が樹脂サッシかな。
A:樹脂サッシのデメリットは何ですか?
S:樹脂は枠が太いのです。枠が太いと日射取得も減りますし、見た目がやぼったくなりがちですね。あと、樹脂の色味が自然素材と比べると浮くなあ、と思います。
A:プラスチック色な感じは確かにしますね。経年変化していくと樹脂サッシはどうなっていくのかいまいちわかりません。
S:日本は窓の発展が遅れていたので身近に前例がないですよね。ヨーロッパでは随分昔からアルミサッシではなく、樹脂サッシが主流でした。
A:木製サッシのデメリットはなんですか?
S:値段が高いことに尽きるかな。
A:メンテナンスも必要でしたっけ。
S:はい。外側の木の部分の塗装は、塗り直しが必要です。最近は外側だけアルミを巻いて耐光性を高めたものもありますね。
A:なるほど。家の寿命と窓の寿命って同じくらいと考えて良いんですか?
S:なかなか突っ込んだ質問ですね。おそらく窓の寿命のほうが短いかと思います。断熱性能を高めるためにガラス内部に入れられているガスが長年使っているうちに抜けていき、使えるけれど、性能が担保されなくなる、と窓の専門家の方は言ってます。
A:でも窓を変えるのって一大事ですよね。私もずっと自宅のリビングの窓を変えたいと思っているんですけれど、工事が大掛かりになりそうで手をつけられません。
S:そうなんですよ。日本製のサッシの場合、雨対策の兼ねて家の躯体に絡めて施工するので、取り替える場合は外壁を窓の外周20㎝くらい壊さないといけない。その点、海外の木製サッシは取り外して新しいのをはめるだけでかえられます。
A:えっ、サイズさえ合えば、ぽこっと取り外してぽこっとはめるってことですか?
S:そうですそうです、便利ですよね。日本のサッシメーカーの樹脂サッシも設計の工夫で取り替えに対応できるんじゃないか、と僕は思っています。
A:そうなんですね、窓のメンテナンスについてはもっと知りたいですね。家の寿命が100年と言われている時代に、窓も100年使うのかなあ、と思ってたんです。割れたりもするし、日が当たる窓枠やガラスは経年変化もするだろうし。
S:全部の窓は変えなくても、メインの窓なんかは変えたいですよね。
A:そうですよねえ。今、アルミや樹脂のサッシは、大手サッシメーカーが製造していているんですよね。
S:はいそうです。
木製サッシは海外のメーカーのを輸入している商社があったり、自社で少量を生産している国内メーカーがあったり、いろいろですね。
A:もっと木製サッシが普及して、価格が下がったらいいのになあ、と思いますね。やっぱりアルミサッシの外観って、惜しいなあと気になってしまうので。
S:窓が外観に与える影響って大きいですからねえ。
A:予算の関係で、アルミ、樹脂、木製を使い分けなきゃならなくなったら、どうします?やっぱりリビングなどのメインの窓を木製にして、北側の目立たない部分をアルミサッシとかにします?
S:そういう使い分けがわかりやすいかなとは思いますね。あとはリビングなどの大きな開口の窓も、引き戸は構造的に価格が高くなるのでやめて、FIX窓を現場の建具屋さんに作ってもらうこともできます。もちろんバルコニーへの出入りなどは必要ですので、そこだけはドアタイプの窓を木製サッシにして取り付けます。価格は抑えられますよね。
A:そうか、そういう手もありますね。窓は建具屋さんなら作っていただけるんですものね。そうそう、海外の木製サッシって網戸って付いてます?
S:ついてないですね。
A:そうなんですね。そういう場合は網戸は特注で作ってもらう?
S:まあ、そうなります。これは文化的な違いが大きいですよね。開けたら閉めるのドア文化と違い、日本には開け放って風を楽しむという目的がありますからね。僕自身も風を楽しむのは好きです。
だからこそ窓の機能を整理するって大事かなと思いますね。通風のための窓なのか、外に出るための窓なのか?景色を楽しむための窓なのか?
A:そうか。そうですね。風を楽しむだけなら涼しい北側の窓を開けるのでもいいんですよね。そうすればその窓にだけ網戸をつければ良いわけだし。網戸ってあればあっただけ掃除や張り替えも必要ですしね。
S:掃除はそうですよね。
A:窓って論理的に出来ているのですねえ。
私自身、窓といえば網戸が外についた引き違い戸が普通、と思っていたんです。でも、引っ越した中古住宅は、滑り出しや観音開きの窓が多い家で、網戸もほとんど室内側についていました。住みながら窓の整理をして、通風には使わないと決めたところの網戸を取り払ってみたら、部屋がすっきりした経験があります。
過渡期にあるようにみえる窓ですけれど、日本らしさも大事にして、海外の良いところも取り入れてうまく窓と付き合っていけるといいなあ、と思いました。
S:窓をつけすぎれば家の性能は下がりますが、日常的に豊かな暮らしをするためには重要です。その辺りのことは理解しておいていただきたいなと思います。