つぶやくふたり

talk about housing

A:今回は「家の耐久性能」について話そうと思います。

私たちのホームページで「(私たちの家づくりで)大切な6つのこと」を書いてます。その中の一つが「家の耐久性能」です。でも、この話って少し難しいんですよね。

HP「大切な6つのこと」より抜粋

例えば、ひとつ目に、

[防水性] 外部からの雨水の侵入を防ぎます。(通気工法、開口部処理など)

とあります。雨が室内に入らない家を作るなんて当たり前のことだと思うんです。これが出来ていない家ってあるんですか。

S:天井からポタポタ水が落ちてくるみたいな雨漏りではなくても、建てて1年くらいで外壁や窓枠からじんわり雨水が侵入してくるような事はありますね。
2009年に「長期優良住宅」という文字通り長く良い状態で住める住宅の基準が出来て、家を長持ちさせる耐久性能の高い家づくりの基準が初めて法律で定められました。

A:2009年というと14年前、結構最近ですよね。それまでそういう基準がなかったのが不思議に思います。

S:そう、かなり最近です。
防水性については、水が侵入してもすぐ乾いてしまうような環境だと問題は起きないんですけれど、日本は湿気が多くて腐朽菌が繁殖しやすいですね。あとは、家の気密の話であったように、昔の家のように壁の通気性がいい家であれば問題ないのですが、比較的新しい家は壁の通気性が悪くなったので壁の中に不朽菌が繁殖しやすい環境になりました。家は、建ててから解体するまでのサイクルが、30年とか40年とか他の製品と比べて長いので、新しく考えられた建築工法とか建築材料のデメリットや問題がわかるのに時間がかかるんです。その原因を追求して対策を講じるところまで来たのがわりと最近なんです。

A:長期優良住宅の法律の中では、防水性とか壁の通気性についてどんな基準があるのですか?

S:通気工法といって壁の中に「通気層」を設ける仕様が指定されてます。

通気工法のイメージ図

A:そうなんですね、長期優良住宅の中で指定されてるとは知りませんでした。

S:通気層を設ければ建物躯体が腐らないか?と言ったらそうではなくて、通気層の他にもきちんとした施工が大事なんですけどね。

A:それは、北海道で起きたナミダタケ事件の後に考えられた工法ですよね。ナミダタケ、、怖い話でした。詳しい話は以前のコラム「諦めるしかないの?鎌倉のカビ問題を考えてみる。」に譲るとして、ホームページの[防水性]のところで「通気工法」以外に「開口部処理」とありますが、詳しく教えてください。

S:家では、窓が弱点になるのは以前もお話ししましたよね(コラム「窓の話」を参照してください)。弱くなりがちな窓から水が入り込まないように、窓サッシの設置の前に、建物側に防水テープを貼るのですが、その貼り方にはベストな方法や手順があるんです。

A:この辺りも適当にやってしまう事もある、ということですね。

S:はい、そういうことです。昔の家のように、大きな屋根がガバッと被さっているのであれば、窓周りの処理に神経質になる必要は無いです。昔の家は窓に雨が当たるなんてことはなかったですからね。

A:なるほど。

S:今は小さな土地にめいいっぱい家を建てるので、あまり軒を出すことが出来ないのでね。
この辺りの問題は次の[防湿性]の話もそうですけれど、日本の住宅事情の変遷やくらし方の変化など、色々な要因が複雑に絡み合っている問題なんですよね。

A:うーむ。なるほど。
次の[防湿性] の話も字面だけ読むと、当たり前のことと思うんですけれど、出来てないことが多いのですか?

[防湿性] 壁や天井、屋根内部への湿気の侵入を防ぎます。(防湿層施工)

S:そうですね。
A:昔ながらの家と、ごく最近のきちんとした高気密高断熱の家との間に、いろんな家が存在しているということですね。

S:そうですね。その両端の家であれば、建物の躯体に特に問題は起きないのですけれど、どっちつかずな中途半端な家が良く無いわけです。今、亜紀さんが住んでる家あたりが、その中間の時代の家という感じです。

A:ああ、そうですよね。すっかり自分の話が抜けてました、笑。築30年の我が家、壁の中とかでは結露がきっと起こっているわけですよね。

S:ほぼ確実にそうでしょうね。30年前に建てた頃には、まだ壁の中が結露するという概念さえあるかないかぐらいの時代です。

A:まあ、壁の中を開けたらけたらショックなことになっているんでしょうねー。怖いな。。
北海道で高性能住宅の概念が生まれてから30年以上たちますけれど、どうして年月が経っても、きちんとした高気密高断熱の住宅が日本ではなかなか広まらないのでしょうね。

S:良いものであっても、それを選択するという人ばかりでは無いということと、そういった情報が家を建てる人に届いてないなあ、というのは感じますね。
高度経済成長時代に、所得倍増計画で夢のマイホームを持つことが良いとされて、とにかく安易に家を建てた時代がありました。現在もその流れから脱却していないような気がします。

A:30-40年ごとに建て直してもらえれば、儲かる会社も多いですからね。

次に、[防蟻]について。

 [防蟻] ホウ酸塗布などの対策を行いますが完全に防ぐことができません。 加えて蟻害を発見しやすい環境を提案します。
この蟻害を発見しやすい環境ってどういうものですか?

S:コンクリートの基礎と地面の土が接するところに、シロアリが侵入しやすい場所を極力作らない、ということですかね。

家の配管って基礎を貫通して外に出すんですが、外に出るところを地中部分に埋めて、配管を見えなくして見栄えを良くすることがよくあるのですけれど、そこはシロアリの侵入経路になりやすいです。
僕は出来るだけ配管は基礎の立ち上がった地表部分で一旦外に出してから地中にもっていくようにしています。配管が見えてしまうのは嫌だという人もいますけれど、見え方よりも家の躯体を守る方が大事だと考えています。
シロアリは直射日光が苦手なので、一旦土から出て基礎の壁をつたって上がっていくという動き方はしないので、これでだいぶ蟻害のリスクが減ります。

A:全ての家がこのやり方にしないのは、見え方だけの問題なのですか?

S:そうですね。

A:蟻だけじゃなくて将来的なメンテナンスを考えると、配管は見えるところにあった方がベターですよね。

S:そうですそうです。

A:ざっくりと耐久性能について話してきましたが、最初と同じことを言いますけれど、この話題って難しいですね。建ってしまえば見えない部分だし、耐震性能のようにすぐに命に関わるかといえばそうでもなく。30年ぐらいで建て替えるつもりなら、そもそもそこまでこだわる必要があるかどうか?という話。

S:そうなんですよね。だからさほど重要視されずにここまできてしまったわけです。住宅を供給する側も詳しい説明をせずになんとなくうやむやにしていたという反省もありますね。
僕もこの話をお客さんにするときが一番難しくて、腐食や蟻害の進んだ家の写真を見せて、怖いですよねと伝えるようなやり方をしてきました。でも最近やっと違う動きを感じるようになった気がします。

A:というと?

S:戦後ずっと続いてきた、効率よく大量生産で出来たものを消費する、という行動に対して、それで良いのか?と問いかける声が増えたように感じます。
自分で考えてきちんと納得した上で欲しいものを手に入れようという方が増えてきたように思います。

A:私が子供の頃、安心できる素材で作られたお菓子やパンが少ないと母が嘆いているのを覚えています。でも今は、探せばそこまで苦労なく安心な素材にこだわった安全な食材を買うことができます。

S:食の考え方は変化しましたよね。スーパーで均一に処理された食材を買うより、少し形が悪くても、値段が高くても、こだわりの専門店や生産者さんから直接買う方が増えた気がします。
洋服や靴なども、作り手のこだわりが感じられるものを長く持ちたいと考える人も多くなりました。

住宅もそういう動きが始まったなあ、と思うんですよね。僕が現役のうちにその流れが本流になることはないかもしれないけれど、その後の世代で、当たり前に良い家が手に入るような社会を作っていかなければいけないだろう、と長年この業界にいたものとしては思うわけです。
均一に工場生産されたものではなく、丁寧に作られたものを愛しんで大切に育てるような文化がごく当たり前になる、そんな時代になればいいなと思います。

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