鎌倉で高性能住宅を建てる!I邸プロジェクト⑥〜想像を超えた設計の提案をする〜
A::志水さん、こんにちは。
いよいよI邸の工事が始まりましたね。
現場に行くと、レッドゾーン対策で建てた斜面側のコンクリート壁の高さが気になります。
S:地面からの高さは1,880mmですからね、まあまあ、高いですよね。
A:でもこれ、中に入って生活するときは、窓もちゃんとあって、コンクリートが見えるわけではないんですよね。
S:そうですね、この部分は工夫したところです。
まず、この家はレッドゾーンにかかっていない所の基礎の上面を地面から1,080mmの高さにしました。
A:一般的な住宅の基礎の高さが400~450mmですから倍以上の高さがありますね。
S:1,880mmの壁との差もそこで緩和されてます。
さらに、一階の斜面側を中二階のように少し高くして、床下に約1,500mmの空間ができているので、レッドゾーン対策のコンクリートの壁のほどんどをその床下で処理できています。
A: 1,500mmあれば、ちょっと体をかがめれば歩くことができる高さですよね。基礎の内部が大きな収納スペースとして活用できるという発想、面白いですよね。
S:僕の作る家は基礎の中も断熱をして、冬はその基礎内部にエアコンの温風を送って家全体を一定の温度にします。基礎内部も居室と同じ環境なんです。
A:床下というと、夏はジメジメしていて、冬は寒いというイメージがありますが、そもそもそうじゃないんですもんね。
この高基礎の発想は、この土地を見たときからあったのですか?
S:そうですね。
家の中は全て快適な空間ですから、基礎の内部も含めて使い倒せばいいんです。
A:ライブラリーとしても使えますね。
土地を有効利用したいという以外に、高基礎にした理由はありますか?
S:基礎を高くすると、床下にもぐってシロアリの点検をするのも楽なんです。長く家を持たせるためには、メンテナンスしやすい環境を作るというのも大事だと思います。
A:うちは床下が40センチくらいしかないので、引っ越した時にシロアリ屋さんに床下に入ってもらった以外は、誰も床下に入っていません。
I邸は床下に階段で下りられるので、お施主さん自身で点検してみることもできそうです。
S:はい、そうですね。
高基礎の話からはちょっと離れますが、この土地が道路面から少し上がっていたのも、設計者としては良かったです。
A:ほー。どういうことですか?
S:南側に迫ってきているお隣さんの建物の影響なく、冬の太陽の日射を得ることが、この建物にとっては大事です。そのためには建物の高さをを風致地区の規制ギリギリの8mまでもっていきたい。
でも、間口の狭い土地で高い建物を建てると、道路から見たときにバランスの悪いのっぽな建物になりがちです。その見え方を緩和するためには道路の高さレベルから、いきなり建物が建ち上がらないようにしたいんですよね。
A:へー、そういうものなんですね。だからあえて設定地盤の高さを道路レベルから1,100mmの高さにしたのですね。
S:そうなんです。
設定地盤の高さは設計士が決められますけれど、上げるのには費用がかかります。
でも今回はもともと土地が道路面より高かったので、それほどお金をかけずに設定地盤を高くすることができました。
A:なるほど、建物のプランニングの為には、土地の高さなどのプランニングがすごく大事なのですね。
S:はい。そうだと思います。
建物と道路の間のスペースは、駐車場とシンボルツリーを中心とした植栽のエリアになるので、道路を通る人からは、建物の高さが気になりにくいと思います。
それから、実はシンボルツリーの枝振りも、重要ですね。
A:あ、そうか。
建物の外壁が建ち上がっていることを感じさせないような樹形が良いということですね、なるほど。
また同じ質問をしますけど、この土地を初めて見たときに、そういうことまで考えていたんですか?
S:ええ。
具体的数字は分からないけれど、設定地盤を上げることで有利になるな、という確信はありました。
ただ、設定地盤を高くすれば、道路から玄関ドアに行くまでに階段が必要になります。
毎日のことなので、無理がある段数や高さではいけませんので慎重に考えます。快適な段数を決めていくと、自ずとほかの要素も決まってくるんですよね。
室内側でも同じなんです。1階から中2階の部屋に何段で上がるか?そこから2階までは?高基礎の内部空間に下りる時は?と階段のデザインから階高が決まってきました。
A:ここにきて階段、なんですね。
話の端々で志水さんの階段へのこだわりを感じていましたし、古今東西の著名な建築家たちは、多くが階段マニアですよね。
いまいちその理由がピンと来なかったですけれど、少しわかってきた気がします。
S:笑。そうなんです、階段、重要なんです。
A:ふむふむ。
全ての複雑な要素が絡み合って出てきた結果が、今の形なんだということがよくわかりました。
なんというか、一つ一つの要素を解決していくというよりは、全体を見ながら最もバランスの良い解決方法を探していくという感じなんですね。面白いですねえ。
S:パズルみたいで面白いです。ほかのことそっちのけで、随分この物件の設計に時間を使ってました。
A:こういう設計はなかなかハウスメーカーさんでは出来ないものですか?
S:思いつく人はいるでしょうけど、会社としてそれに時間をかけてやり通すかというと疑問ですねえ。
A:志水さん的に、この設計は難しかったですか?
S:どうでしょうか。
設計に関して全てお任せしてもらえていたので、やりやすかったですね、僕は僕の中のロジックを組み立てていけば良かったので。
子供部屋は絶対二つとか、リビングは何畳以上とか、そういう縛りがあると設計がそちらに引きずられがちですが、お任せしてもらえれば、こういう生活はいかがですか?という提案をできるのですよね。
A:なるほどねえ、、深いです。お施主さんの想像を超えて提案をしていくんですね。
S:僕としては、この土地に家を建てるということに関してのベストな解を出したと思ってますので、お施主さんには、「どうぞ楽しんでくださいね!」というのが今の気分です。
次回コラムへ続きます