つぶやくふたり

talk about housing

A:志水さん、こんにちは。
今日は京都で手掛けられている物件について伺いたいと思います。
今、銀閣寺の近くの鹿ヶ谷というエリアで、アメリカ人の画家さんの邸宅を計画されていますけど、この辺り哲学の道に近くて良いところですよねー、詳しく物件のことを教えてください。

S:施主は中国系アメリカ人の画家さんで、今はアメリカ西海岸に住んでいます。
終の住処として日本を拠点とすることを考えて、京都で大きな土地を手に入れました。もういくつも家を建てられていて、これが5軒目の家づくりだそうです。

A:大きいってどれくらいなんですか?

S:並びの土地を2区画手に入れたので900㎡近くの広さがあります。

A:広い、、もう大規模開発みたいなレベルですね。

S:京都では500㎡以上の工事は開発行為になってしまうので、まず「開発の非該当」という申請許可を取りましたよ。

A:住宅を1軒建てるだけで、開発ではないよ、という許可をとるってことですね。なるほど。元々は何があったんですか?

S:数寄屋作りの日本家屋ですね。建物と庭の比率が2:5くらいで、かなり広い300㎡くらいの庭がついてます。

A:へー。すごい世界ですね。
ちなみにこのご時世、海外の方とはずっとオンラインで打ち合わせですよね?

S:そうです。やっと来日できる目処がたち、そろそろ会えるかな、という感じになってきました。

A:全てオンラインで進めていくって、ちょっと前からは想像できない変化ですね。
実際どんなふうに仕事が進んでいくんですか?具体的に、こんな家が欲しいという要望はあったんですか?

S:施主さんはすでに何軒も家を建てていて、「家づくりの流れはわかっているし、自分達の好みもはっきりしている」だから、あとは言われたことを図面にしてくれればOKみたいなスタンスで、設計できる人を探していたようです。でも、僕の前に頼んだ設計士とはうまく噛み合わず、提案もしてくれる人を探そうとなり、紹介で僕が関わることになりました。

A:まずは少しお話を伺って提案書を出すという流れになるのですか?

S:そうですね。事前のお話で「日本的であること」「リビングダイニングは広く」「寝室は2つ」というようなざっくりとした要望をいただきました。そのあと、僕は2つの案を提案して、そのうちの一方の案が採用されましたね。

A:場所的に閑静な住宅地ですし、広い土地ですから周辺環境にそこまで配慮しなくても良いと想像しますが、、、。

S:それがそうでもないんですよね。東側は庭も広がり、山の景色も綺麗なのですが山側に学校があるんですね。物件より高台の土地の3階建ての校舎からだと見下ろされる感じになってしまうので、窓の位置に注意しなくてはいけません。また、北側は道路なのですが、その反対側には住宅がひしめいていて、こちらはできるだけ窓を作りたくない。それでこのような提案をしました。

A:普通の家を建てる時と同じように、周辺状況を整理するんですね。日照や視線などを整理して、きちんと論理的に説明する、土地が大きくても小さくてもここは変わらないんですねえ。

S:細かい部分はヒアリングしきれていなかったので、あとの要素は想像で盛り込んでおきました。

A:何回も家を建ててる方だから、室内の細かい部分は後から調整可能だとわかっているのかもしれないですね。それよりは、立地から導かれる土地の特性を整理して、その魅力を最大限にいかす考え方に共感されたんでしょうね。

S:そうかもしれないですね。このお施主さんとの打ち合わせでは、98%は満足している、あとの2%をこうして欲しいんだと要望されます。

A:良い信頼関係。立地条件や和の外観のデザインなどの整理がついたら次は性能の話になるのですか?

S:そうです。今の西海岸の家は、ガラス張りのかっこいいお家のようなんですけれど、寒いらしいんですね。おそらくシングルガラスで、燃料費が安いアメリカなのでセントラルヒーティングなんじゃないかな、と思います。打ち合わせを進めると、暖かい家が良いなあ、というキーワードを言われていました。

A:暖房をガンガンつけても、なんとなく冷気が入って来る感じなんですかね。
欧米人って冬でも半袖ですけれど、アジア人ってそれはちょっと難しくて、、お施主さんも寒いのは嫌だな、と思いながら暮らしていたんですね。

S:で、今回も朝日さん(スウェーデンをルーツとした輸入商社の建築材料部で、主に住宅用の換気システムの営業をされていた方。https://nicinicito.com/20220411-2/)に空調計画を立ててもらい、1階は第1種換気にエアコンを組み合わせるものにしました。

A:1番高級なタイプですね。2階はどうされたんですか?

S:2階は100㎡程度だったので、第1種熱交換換気は取り入れつつ、小屋裏に冷暖房用のエアコンを1台設置するものにしました。

A:2階はリーズナブルな方法にされたんですね。100㎡の広さ、一台でいけるんですね。

S:いけますね。UA値で0.35くらい。G2とG3のレベルの間ぐらいです。

A:必要十分って感じですね。太陽光パネルはのせるんですか?

S:のせますよ。瓦の大屋根の方ではなく、南面に張り出した小さめのガルバリウムの屋根にのせます。

A:そういう提案は海外の方でも理解してくれますか?

S:日本のエネルギー依存度の高さから、燃料費が不安定であることを伝えるとすんなり理解してくれますね。

A:なるほどー、光熱費はいくらくらいになるんでしょうね。

S:床面積は広いですけれど、光熱費は月1万円前後でおさまると思っています。

A:安い、ここまでの流れを聞いているととてもすんなりと仕事が進んでいる気がするのですけれど、そうなったポイントはどこにあるとお考えですか?

S:早い段階で3Dで作図をしていたのはよかったかな、と思いますね。立体で見て、ああでもない、こうでもない、この感じが好きなどという感覚的な部分を深められたと思います。
外壁は和風ということで白に近い黄色の聚楽壁、木部は少し赤茶色。窓には日本的な格子、屋根は入母屋造り。この辺りは施主の好みが反映されています。

後からこうじゃなかったのに、とならないように早めにイメージを共有しておくのは大事だなと考えています。特に僕は一貫した作風があるわけではないので、、、

A:ふむふむ、建築家の過去の作品を見て「これと同じように建てて」という注文の仕方ではないということですね。

S:そうですね。今回はお互いに合意形成しながら、こちらの良さも理解してもらって、という流れが特にすんなり進んだと思いますよ。まあ、ちょっと大変だったのは、画家さんなので高い天井が欲しいとのご希望があり、一部の天井は高さ3000㎜くらいあります。

A:おお、結構ありますね。普通は天井高2400㎜前後ですからね。

S:普通の住宅では2400㎜の天井の上に配管や梁などがあるので、それらが配置できるクリアランスをとって階高2800㎜くらいに納めますよね。天井高3000㎜で同じことをやってしまうと、どうしても家の外観がのっぽでバランスの悪いプロポーションになってしまうので、3000㎜ある天井部分では配管や梁は来ないように整理しました。ですので、見上げると直接二階の床が見えるようになっています。もしこの見え方が気に入らなければクリアランスをほとんど取らずに化粧天井を貼ることもできます。
外観も腰高な感じに見えないように、大屋根の水平ラインを強調するべく庇のバランスには特に注意しました。

A:そもそも大きい建物なので、ある程度の高さは横のバランスで吸収するのでしょうけれど、それでも、そのような工夫はするのですね。大屋根は瓦なので重厚感もあって、よりどっしりと高さを感じない形になるのかあ、と想像します。

S:それはまさにその通りです。

A:ちなみに2階の天井高は?

S:2400㎜−2500㎜の間で1番天井が綺麗に見えるバランスを今検討中です。

A:なるほど。
今日は色々と物件の話をありがとうございました。
今回の話を聞いて、家がどんなに広くても計画段階でやることは一緒なんだなあ、と思ってなんだか嬉しくなりましたね。

S:ははは。そうですよね。

A:あとは壁にしても、床にしてもすごく面積があるので、素材選びは重要そうだな、と思いますね。

S:そうですね、大きい壁面を安っぽいビニルクロスなどにしてしまうと、空間の質が変わってしまいますよね。大きな家は特に素材の質が大事になるかもしれませんね。今のところ室内の壁はそとん壁にしようと考えています。

シラス台地のシラスから作られているそとん壁。塗りの厚さは下地を入れて20㎜近くになります。共栄木材の三秋ホールの壁です。

A:共栄木材の三秋ホールで志水さんそうつぶやいていましたよね。圧倒的な厚みがもたらすそとん壁の存在感が、大空間で映えますねえ。きっとたくさん絵画作品なども飾るだろうし、温かみのある美術館のような雰囲気になるんじゃないかなあと思います。素敵です。
まずはこの土地の雰囲気を感じたいので、建物が建つ前に現地を見に行きますね。

S:そうですね、ぜひいらしてください。

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