つぶやくふたり

talk about housing

A:志水さん、こんにちは。先日の愛媛出張はありがとうございました。

S:いえいえ、色々勉強になりましたねー。亜紀さん、ほんと楽しんでいましたよね。

A:もう、家のことになると、楽しくてしょうがないんです。妄想が止まらないというか、、しかも、私の妄想を現実化してくれる志水さんが一緒にいるわけで、自分の脳が2つあるような気分でした。
愛媛の共栄木材さんには、これからの日日との家づくりの標準になる素材を調べにいきました。

愛媛の豊かな景色の中で、木材のさらなる可能性を模索しつつ、アイディアに満ちた魅力的な素材を色々と出されている西下社長(2022年4月から会長になられました)ご本人にお話が聞けたのはとても良い機会でした。

共栄木材:ホームページよりお借りしました

さらに、ホルツェン大阪の朝日さんに出会えたこともとてもありがたかったです。

朝日さんは、スウェーデンをルーツとした輸入商社の建築材料部で、主に住宅用の換気システムの営業をされていました。換気システムにとどまらない提案をしたいと最近独立され、共栄木材の営業も行いながら、自然素材の建材の提案を扱うホルツエンの大阪の営業所を立ち上げられたところです。

S:僕が朝日さんに初めてお会いしたのは、前々職で地方の工務店のお手伝いをしていた頃でした。
最近になって偶然、朝日さんからご連絡をいただき、僕が以前から興味があった共栄木材さんの営業もされているということで、ぜひ案内をとお願いした次第です。

A:グットタイミングでしたよね。

私もちょうど最近、志水さんと気密の大切さを学ぶYoutubeを作っていて、その中で気密と換気の関係を勉強し始めたところでした。
さらに詳しいことを知りたいなと思っていたので、今日は朝日さんをゲストにお呼びして、色々教えていただきたいと思っています。

(換気の予備知識)

換気について基本的なことをYoutubeにまとめているので、よろしければご覧ください。
高性能住宅のきほんのき04 気密と計画換気 https://youtu.be/vuwpM5ACALY
高性能住宅のきほんのき05 換気の種類 https://youtu.be/rAXy2FC1l1Y

基本的に住宅で使われる換気の種類は第1種換気、第3種換気の2種類です。
下の図にもありますが、第1種は機械で給気して、機械で排気。第3種は壁に開けてある給気口から自然給気して、機械で排気。この中にさらに細かい分類はありますが、とりあえず、これだけは押さえておいてくだい。
そして第1種は熱交換換気といって、排出する空気から熱や湿度を奪い、給気した空気に渡すことができます。

朝日さんの資料より

朝日さん今日はよろしくお願いします。

ASAHI(以下H):はい。ご紹介ありがとうございます。僕も久しぶりに志水さんとご一緒できてとても楽しかったです。

S:よろしくお願いしますね。
最新の換気システムについては設計者の僕もまだ勉強中の部分があります。とても楽しみです。最初から質問ですけど、どうしてスウェーデンでは換気システムが発展したのですか?

H:それはですね、高断熱高気密の住宅の歴史が原因かなと思います。
ご存知のようにスウェーデンは寒い国ですので、高断熱高気密の家はずいぶん早くから建てられていました。24時間換気についても1976年には法定義務化されています。(日本では2003年から24時間換気が義務化されました。)
スウェーデンで確立された技術システムが多少手を加えられて、ドイツなどでも導入されていると考えて良いと思います。

A:日本とは住宅の考え方のレベルが違うのでしょうね。
まず朝日さんの資料から、いくつか質問をさせてください。このピラミッド図のてっぺんにある全館空調の定義について教えてください。全館空調と言う言葉は最近よく目にするのですけれど…

朝日さんの資料より

H:換気(空気清浄)と空気調和(温度コントロールなど)はそもそもは別なものなんですけれど、住宅市場では空調システムと、換気システムを一緒に計画するやり方がここ数年で一般化してきました。
その中でも最高峰が、全館空調。方式はハウスメーカーやハウスビルダーで違いはありますが、換気システムとエアコンを組み合わせ家全体の換気と温度をコントロールすると考えていただければ良いかと。
非常に快適なシステムですけれど、住宅の性能によって、その効果が大きく左右される部分でもあります。

S:高いお金をかけて、第1種換気システムをつけても、住宅性能が低ければその機能が発揮されないと言う話はよく聞きますね。

H:断熱気密の性能が高くない家に全館空調をつけた場合、熱損失が大きいので想定した全館空調のパフォーマンスを発揮するためにはハイパワーな機械と、多くのエネルギーが必要になります。結果、省エネとは程遠くなってしまう。性能の高い住宅では小さなエネルギーで全館空調が可能になるので、相性が良いです。

A:なるほどね。わかりました。

H:で、「いきなりまとめ」と言う資料をみて欲しいんですけど。

朝日さんの資料より

ここに現在住宅で使われている換気システムの長所短所、結局どれがいいの?といった話をざっくりとまとめてあります。

1番目にある第3種換気、これは室内の給気口から自然給気で空気を取り入れていろいろな場所にある小さなファンから排気しているというシステムです。このイメージはできますかね。

A:わかります。よく見るタイプですね。

H:一番多く導入されていて価格も安いですが、ファンから遠い場所では、空気の澱みや湿気だまりといった場所ができてしまうのが問題点です。

A:セールストークはほぼ無いって書いてある、、、、笑。

S:この従来型の第3種換気でも、気密の値(建物の隙間面積)を限りなく0に近づけることで、きちんと新鮮空気を引き込むことができて、空気の澱みは解決はされないのですか?

H:ある程度は解決されるでしょうけど、パーフェクトにはならないですね。
空気だまり、湿気だまりというのがこのタイプのような局所換気では必ずできてしまうと考えた方が良いと思いますね。
それを作らないようにダクト(空気を搬送するためのパイプ)できちんと室内の汚れた空気を吸い上げて然るべき場所に排気するいうのが第3種ダクト式。
気密が高くて、隙間から屋外の空気が流入することの少ない高性能住宅であればあるほど、ダクト式でなければと思います。

第3種換気ダクト式の図

A:なるほどー。少し分かってきた気がします。
鎌倉ってカビが大きな問題なんですけれど、、カビってその家の中でも空気が澱んで湿度が高くなったところに生えてきますよね。うーん、換気の計画はすごく大事ですね。

H:お二人がHPのカビの回でも話していたように、カビって湿度と時間がポイントで、湿度が高い状態が長く続けば一気に広がりますよね。
住宅用換気の最大の目的は、『室内環境の保全』と『排臭』、そして『排湿』なんです。

A:うーん、『排臭」は分かるんですけど、『排湿』は実は初めて知りました。
そもそもはそんなに大事な役目があるのに、家を建てるときに換気ってそこまで重要視されていないような気がしてきた、、、特に鎌倉では大事な問題ですね。

H:そうですね。
今、日本はやっと高性能な住宅を建てて、省エネルギーで快適に暮らすという方向になっています。ただ、換気にまで目を向けるほどには、住宅業界が成熟してないですからね。
「いきなりまとめ」の資料に戻りますね。みなさん、結局どの換気システムがいいのかと言う話になるとは思いますが、、、僕の答えは、「建物の性能により相性の良いシステムが異なりますので、家を建てる方がその違いを十分理解して、選ぶ必要があります」です。

A:おお、ここでも勉強が大切になってくるんですね。

H:たとえば、説明だけ聞くと第3種換気は室内の暖かい熱をそのまま排気して勿体無い。第1種換気はその熱を回収して室内に戻すのでなんてエコなんだろうと、メリットしかないと思われる方も多いと思います。

A:はい、志水さんに教えてもらって「第1種換気ってすごい」と感動していた私です。

H:笑。

第1種換気は機械で給気排気するので、第3種換気よりも複雑な機械になって、コストはだいたい倍になります。
スウェーデンや北海道のような寒冷地の場合は、1年の半分が暖房期間なので熱交換のメリットを十分に得ることができますが、鎌倉や私のいる大阪は冬の暖房期間は3ヶ月程度。この地域で1種換気を導入しても、1年の多くの時間は熱交換せず3種換気と同じ動きをしています。
熱交換のメリット、特に冬場は大きいです。でも換気本来の目的を考えた場合、、、イニシャル、ランニングコスト、メンテナンス性のトータルで考えたとき、3種換気も優れた選択肢であると言えます。

A:夏も熱交換は一応機能はしてるんですよね?

H:してますが、冬場のそれよりはインパクトは非常に小さくて、、、熱交換換気の仕組み上そういうことになるんですけれど。夏の高温・多湿な空気が熱回収でほんの少し減温、減湿して入る程度に考えておいて欲しいと思います。

A:ふーん、なるほどですね。

H:『第1種換気は省エネ』『熱回収にメリットがある』という点だけで、システムを選んでしまうと換気性能の目的である『空気清浄』の部分が霞んでしまうことにもなりかねないので、住宅の高性能化の手法としてはしっかりと順番を踏んで欲しいと思います。

A:順番?

H:本来、家の躯体側の高性能化をやり切った上で、さらに熱損失を最小限にするために熱交換換気システムを導入するというのがセオリー。『熱回収』の都合の良い部分だけに注目して順番を間違えてしまうと、バランスの悪い建物になると思います。

A:なるほど、本来の目的がどこにあるかということは揺らいでしまってはだめなのですね。私なんか外の暖かい空気が温められて入ってくるからとても快適ですよ、と言う宣伝文句にすぐに引っかかっちゃいそうです。

H:実際住宅ビルダーさんたちも、第一種換気を熱交換の部分だけ強調してお客さんに話していると思うんですよね「すごいでしょ、いいでしょ」って。
ですけれど、熱交換は換気の副産物の1つでしかありません。
スウェーデン式の換気システムの本来の目的は、何度も言いますが『空気清浄』なんです。

次回に続きます)

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