つぶやくふたり

talk about housing

A:こんにちは。

今日は志水さんにパッシブデザインについてお話ししていただこうと思ってます、よろしくお願いします。そもそもパッシブっていう言葉ですが、受け身とか受動的とかの意味がありますよね。

S:はい、そうですね。
家づくりにおけるパッシブデザインとは、自然に逆らわずにデザインするというような意味になりますね。なるべくエアコンやストーブなどのエネルギーの利用は最小限にしながら、快適な住環境を目指す、そんな感じの意味合いです。
各部屋にエアコンやストーブを設置して、冷暖房をふんだんに使って快適な住環境を目指すのはパッシブデザインとは真逆の考え方になります。
パッシブデザインの考え方には5つの要素があります。日射取得、日射遮蔽、断熱、風の利用、昼光の利用です。

A:ふむふむ、日射遮蔽とか風の利用とか、昔ながらの日本家屋でも見られる手法ですよね。すまいは夏をむねとすべし、、的な。
ちょっと本題から外れてしまいますが、なぜ日本の家って夏に重きを置いた作りなんでしょうか?

S:それはですね、昔は冬よりも夏に亡くなる人が多かったからだと言われていますね。亡くなる原因は腐敗したものを食べたりという衛生の問題です。とにかく涼しく湿度を溜めないような家づくりをするしかなかった訳です。

A:なるほど、そうなんですね。それはすごく納得です。
昔の家づくり、理にかなっていたんですね。でも現代は冷蔵庫などもあり、そこまで衛生を気にしなくて良くなりましたね。

S:そうですね。技術が発達したことで夏を乗り切るためだけの家づくりをしなくてもよくなりましたね。ですので日射も十分に取り入れて、そのエネルギーを逃さないようにきちんと断熱しよう、という流れになったわけです。冬も夏もうまく自然の力を利用しつつ、技術の進歩も受け入れて少ないエネルギーで快適に暮らすというのがパッシブデザイン設計の基本的な考え方だと思います。

A:鎌倉などは冬は比較的温暖ですよね。

S:そうですね、鎌倉の冬の晴天率はかなり高いのでその時間の日射をどう取り込むかということはかなり重要だと思います。あとは暖かいと言っても海風がきついエリアなどもあるのでその辺りの工夫も考えたいですね。パッシブデザインは地域によって考え方もデザインの方法も多岐に渡ると思います。

A:わかりました。私はこの仕事を始めるまでパッシブデザインと、パッシブハウスの違いがいまいちよくわからなかったのですが、その辺りも簡単に説明してください。

S:パッシブハウスというのはドイツのパッシブハウス研究所という機関が考えた基準をクリアした家のことです。なるべくエネルギーを使わずに暮らすため厳しい基準で、日本の長期優良住宅などと比べると格段に厳しい。冬は寒くて、夏は乾いていて比較的過ごしやすいヨーロッパの気候に合わせてあることも特徴の1つです。

パッシブハウスという基準が満たせるかどうかは、その家が建つ立地に左右されることも多いので無理して目指す必要はないと僕は思っています。

A:そうなのですね、パッシブハウスのように、パッシブデザインにも明確な基準みたいなものがあるのですか?

S:いえいえ、具体的な基準は全く無いんですよ。5つの要素に配慮して設計しましょうねーくらいな感じです。お客様の要望によっても変わりますし、設計士の考え方によっても変わります。日射取得を頑張る設計士がいたり、それほどこだわりのない設計士がいたり、様々ですね。ただ、パッシブデザインという設計手法がある、そういう手法を使うとこういうメリットがあるということはお客様に伝えて理解していただいて、なるべく推進していく方向が良いとは思います。

A:ふむふむ。今の話を聞いていて、この間お客様と土地を見ていた時のことを思い出しました。その土地は西に開けていて良い眺望が得られる反面、夏の西日は強いだろうなあ、と想像できる場所だったのですけれど、志水さんが「夏はすだれをかけて西日対策しましょう」と言ったのが印象的でした。
私は「シャッターをつける」とか「窓を小さくする」といった対策をとるのかなあ、と漠然と思っていたので。

S:ああ、なるほど。土地の良いところをどう料理するか、ということに尽きると思うんですけれど、その土地はお客様も西の眺望を楽しみにされていたのでね。西日対策と、眺望のバランスを取りつつリーズナブルな案を考えました。

A:それがすだれなんですね。

S:日射遮蔽は家の内側で行うより、家の外側で行う方が効果が高いので、強い西日はできるだけ外側でカットすることが鉄則なんです。電動の外付けブラインドなどもありますけれど予算が限られている場合は昔ながらのすだれやよしずを使いますね。

A:風情もあっていいですよね。西日対策ひとつとっても、パッシブデザインの手法として何を選ぶかはお客さんも希望や、設計士の感覚に任されている曖昧なものなんだなあとわかりました。つまり、家を建てる側も、その設計士のパッシブデザインの考え方が好きかどうかを確認しておいた方がいいということなんですね。

S:そうですね、ほんとそうだと思います。答えが特にないのでね。
例えば海沿いにあるオーシャンビューのガラス張りの建物、こういうのも夏の日差し対策を考えておかないと暑いと思うんですよね。パッシブデザインという考え方に共感するのであれば、パッと見のかっこいいデザインだけでなく、そのデザインが自然の摂理にかなっているかどうか、一歩引いて考えてみる視点は大事だと思いますね。

A:よくわかりました。次回は5つの要素について深掘りさせてください。

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