つぶやくふたり

talk about housing

A:こんにちは。今日は、前回からの続きで、フレキシブルな間取りってどうやって作るの?という話をしていこうと思っています。具体的な話に移る前に、復習も兼ねて間取りの考え方について、志水さんお願いします。

S:はい、そうですね。お家をこれから作ろうと思う皆様の多くは、子供が小さく、今住んでいる家における生活の問題点を解決したいという思いから家づくりを考えます。それはごく自然なことなんですけれど、お客様ファーストな設計士や工務店だと、「問題解決のために、これをつけましょう、あれをつけましょう」となってどんどん家が肥大化していきやすい。設備にしても広さにしても、間取りにしてもそうなりがちです。

A:この間、志水さんが「奥様の要望を全部聞いていると、キッチンが肥大化しやすい」という話をされていて、なるほどなあ、と思っていたんですよね。便利な最新家電を全部並べられるような棚が欲しいとか、カップのコレクションが見えるようにしたいとか、、そういう話を全部反映していると、キッチンの広さはいくらあっても足りないなあと思います。

要望を全部聞いていたら肥大化してしまうので、それらを整理して提案をしていくのが設計の腕の見せ所ですかね。

S:それは、本当にそうです。大抵は予算があるので、優先順位を決めながら整理していきます。ウッドショック以降、家づくりに関わるコストは2割程度値上がり、家づくりにお金が以前よりかかる状況です。面積を削っていくことは、一番のコストダウンに繋がります。僕が設計するときは、先に予算を伺って決めた広さから、絶対に広くならないように設計していきますね。

A:ほー。予算と、およその坪単価から作ることのできる広さが導き出されますよね。その点を最初にお客様と合意しておく、ということですか?

S:そうです。

A:ふーむ、さすがですね。

希望を聞いて夢が広がるプランを作った後に、予算の関係でと減額していくのはすごくテンションが下がるじゃないですか?本当はやらない方がいい作業だよなあ、と思うんです。ここは減額したから、いまいちな感じになってしまったと思いながら長い時間を過ごすのはいやですし。

S:最初に予算的にミニマムなプランを作っておいて、ここはやっぱりグレードをあげたいな、広くしたいな、と思ったら予算を追加していくといいと思いますね。最初に作ったミニマムなプランは、自分はこのサイズで生活ができるかということを検証するための材料となります。

A:ほー、なるほどね。

S:今、小さく暮らすというスタイルが注目されていますけれど、賢い選択だと思いますね。小さく作れば、建物の質を上げられますからね。

A:収納ってあればあるだけ、ものが増える要因になるっていうじゃないですか?うちの実家なんか見ても本当にそうだよなあ、と思います。持つものを厳選するという選択は大事ですよね。

で、ここからが本題になってくるんですけれど、ライフステージに合わせて物の量だったり、必要なスペースが変化するという話でしたが、、、じゃあ実際普通の人にとって、必要な時に必要なスペースを作るっていう考え方、ちょっとハードルが高いような気がしています。あとから壁や部屋を増設するのはお金がかかるんじゃないか、と考えてる方って多いと思うんですよね。

S:リフォームで何百万円って言われたら嫌ですよね。

A:実際どうなんですか?何百万円もかからずにできますか?

S:絶対に音が漏れないように作る、新築で作ったときのような仕上げにするなどという高いハードルでなければ、日曜大工に自信がある方ならできると思いますよ。もちろん、壁の増築があるという前提で最初の躯体を作っておくことが必要になりますけれど。

A:ふすまみたいなものをはめるっていうイメージなんですか?

S:そういう方法もあります。「けんどん」ってわかります?上下に溝があって、そこに板をはめる物です。その板が立ち上がっているだけなら壁。スライドすればふすまの原理になります。

A:それって新築の時に、壁が立ち上がるところに溝を作っておくのですか?

S:いや、後からでもできますよ。

A:えーと、後から溝を作るのですか?

S:あ、この場合溝を掘るのではなくて、突起のレールをつけるという感じです。

A:あ、そういうことか、溝は扉や壁側につけておいて、床と天井の突起にはめるのか!

S:そうですそうです。ガッチリ固定する方法であれば、天井と床に角材を打ち付けてその角材を挟み込むような感じでプラスターボードを太鼓張りにするという方法もありますよね。

A:ああ、なるほど、そういう方法があるんですね。

S:音が気になるならその太鼓張りの間に断熱材を詰めたらいいし。

A:断熱材が音を吸収するんですね!

S:そうです。普通の住宅の間仕切り壁は断熱材は入っていないので、無くてもそこまで音は気にならないと思いますけれどね。

その壁を取り外した後にはビスの痕が残ってしまうんですけれど、それはきちんとドリルで穴の形を整えて、ダボという木のキャップで蓋をすれば目立たなくなります。

A:なるほどー。うーん、意外と簡単かもしれない。そういう簡単なことが簡単だと思われなくなっているのは、どうしてでしょうね?壁とはクロスを貼って綺麗に仕上げなければならない、と思われているのかな?

S:そこが一番の問題ですよね、僕はプラモデルを作っている気分の延長で、自宅のテーブルくらいの簡単なものは作ってしまうんですど、一昔前、僕らのおじいちゃんくらいだとそれはごく当たり前のことだったと思うんですよね、多分。

手元で作る人を見て育った人は、「これくらいなら自分でこうやればいいんだな」ということが感覚的に分かるんです。今の時代、そういうのを見てきた人が少なくなっているんだと思うんですよね。
車もそうです、僕の父親世代はタイヤ交換や簡単なパーツ交換は自分でやっていたけれど、今は車の修理屋さんに持っていかなきゃ、となっている。

A:自分で何とかなるかも、という発想自体が生まれにくい環境なんですねえ。壊れた!大変だ!業者さん呼ばなきゃ!という思考回路になってしまいがちです。

S:でも所ジョージさんの世田谷ベースのような空間に憧れる人がいたり、TVでもDIY特集していたり、自分で何とかできる人への憧れみたいなものは強くなっているような気もします。そういう風潮がもっと充実すれば、壁くらい自分で何とかできるよ、という思考になるんじゃないかな、と期待してます。

外壁だって木を選べば、自分で修繕できるんですよね。

家の修理をDIYでやる、という時代になれば、家との付き合い方がまた変わってくるんじゃないかなあ、と思うんです。もちろん間取りに必死にならなくてもよくなります。

A:誰かにやってもらうとなれば、きちんと決めなきゃとなりますけれど、自分で後でできる、と思えるのは気楽ですよね。家にもそんなおおらかさというか、気楽さがあると良いですよね。

S:アメリカ暮らしの長いクライアントと話していたら、日本では免許が必要な電気工事も、アメリカではDIYでやるよ、と話していました。

A:私のイタリア人の友人も、日本の古民家の修繕をほとんど全部自分でやっていますね。時間はかかるけど、楽しそうです。

料理は最近手作りの良さが見直されてますよね。美味しいものは買ってくるという風潮から、自分で作る楽しさとか含めて手作りも良いね、というような感じで。

家ももっとそうなるといいのかあ。手作り料理の本のように、雑誌などあるのですかね?

S:結構出てますよ。

A:そうなんですね、でも綺麗で素敵なお家の写真と、DIYがいまいち結びつかないんですよねー。素敵なお家を維持するために、住む人はこんなDIYをしてます、というような説明があったらいいのに、、、

S:DIYに向いているインテリア、あまり向かないインテリアというのはありますね。

A:リビングダイニングなどはある程度決め込んだインテリアにして、個室部分は自由にDIYしながら考えるとかが現実的なのかなー。

S:お子さんの人数もわからないうちから子供部屋は2つといった最大公約数的な感じで用意するのは違うかなと思いますね。僕が弟の家を設計した時には個室エリアはがらんどうにしておきました。そして押し入れを可動式にしてそれで間仕切りができるようにしたんですよ。

A:斬新で面白い!

S:結局3人の子供たちが生まれたので、結構窮屈にはなったと思いますが、押し入れの場所で空間が分けられるのは便利だと聞いてます。子供も完全個室が欲しいと思う期間って何年ぐらいでしょうかねえ、3年?

A:自分のことを考えたり、子供たちを見てると中学生くらいから高校生までの6年くらいかな、って思います。その先しばらく自宅に住むならもう少し長いですが、そう考えても10年くらい?短いですねー、家の歴史、自分の人生の中でもほんと一瞬ですね。この短い時間のためにあーでもない、こーでもないって考えていたんですねえ。

S:子供部屋は寝るところと、作業ができる机があって、クローゼットは持ち込みの家具で作れば出来上がりって感じで良いと思います。広さも予算も肥大化させない、って重要です。

A:このGW中はいつもより時間があったので、子供たちが1つの個室に集まって、カードゲームをしたり、漫画の話を夜遅くまでしてたんですよね。自然発生的に集まるそういう感じ、いいなあ、と思いました。子供の個室の広さは最低限にして、子供リビング的な場所があったら楽しそうだなーと思いました。

S:間取りを決め込まなければ、いろんな可能性を考えられますよね。

A:ですねえ。

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