つぶやくふたり

talk about housing

ギャラリーQuadrivium Ostium

 

今回は鎌倉にあるギャラリーQuadriviumOstium(クアドリヴィウム・オスティウム)の代表、黒田幸代さんとのトークです。
家は出来上がったら終わりではなく、そこから新たなくらしが始まります。
日々の生活を楽しみながら、快適で豊かなくらしをどう営んでいくか、何かのヒントをいただけないかと思いお話を伺ってみました。

くらし=生きることのベースづくり?


亜紀(以下A):幸代さん、こんにちは。今日はよろしくお願いします。

幸代(以下K):こちらこそ、よろしくお願いします。

A:ではまず簡単に、幸代さんの自己紹介、お願いします。

K:はい。私は2年前から、鎌倉市浄明寺で自宅1階をギャラリーとして運営しています。現在扱うのは主に現代アートの若手作家さんで、1ヶ月に1回のペースでさまざまなジャンルの方の個展を行っています。
ギャラリーと言っても、生活空間としても作ったスペースですので、趣味のアンティーク家具や、古美術、書籍などが並ぶ空間に展示をしています。

A:私が幸代さんのギャラリーを好きなのは、くらしと地続きにアートがあるところです。私自身、いかにアートを生活の中に取り入れるか、ということを学生時代からずっと考えています。幸代さんのギャラリーに初めて遊びに行った時に、私の想いを具現化している方がいる!と感激したのです。

K:初めて会った時にそう言ってくれましたよね。
そして、そうなの、所有してみるってとても大事。
私自身も、ギャラリーで個展を開催したいと思うアーティストの作品は必ず自分で買って部屋に飾って、生活の中で楽しめるかどうかを確かめます。
お客さまの中には生活にアートを取り入れたいけれど、何から始めたらいいのか分からないという人が沢山いるので、これからは一般のお宅にアートを提案するお仕事もしたいと考えています。それが本当のくらしの豊かさだと思うから。

現代アートと古美術。


A:快適な住環境って「温度湿度が快適」「素敵な景色が見える」こともさる事ながら、「くらしの豊かさを感じる」というのも一つのキーワードだと思います。
豊かなくらしってなんだろうって常に考えるけれど、旅行とか外食とか一時的な出来事に求めるのは違うのかなと。

K:そうよね、もっと生きることのベースになる部分が大事よね。

A:生きることのベースになる活動の多くは毎日すまいで行われていて、だから私はすまいという空間の質が大事だと思っています。キッチンの使いやすさは毎日料理をするモチベーションになるし、大好きな家具やアートのある空間があれば、毎日の掃除も楽になるかもしれない。

K:厳しい冬を乗り切るために生まれた北欧デザインだけれど、コロナ禍以降ブームが再来しているようなの。コロナ禍という厳しい時期を経た後、皆様の目が今までになく「くらすこと」に向けられているのは感じるわ。

A:ていねいなくらし、もよく聞くキーワード。本屋さんに行くと、そういう書籍がびっくりするくらいたくさん出ています。

K:そうね、本がたくさん出ているということは、ていねいにくらしたくてもできない人、どうしていいのかわからない人がたくさんいるってことじゃないかなと思う。

A:確かに。状況的にはアートをどこから飾っていいのかわからないというのに似ているのかもね。

K:空間の質を上げたいならアートを飾ることはおすすめです。
特に若手作家さんならちょっと良い洋服や、家族でレストランに行くような価格で買えるものも多くありますし。
日日とさんのお家を先日見学させてもらったけれど、照明もこだわりがあるし、アートを飾るスペースがたくさんある!
そして作品の個性を邪魔しない志水さんのデザイン。自宅ではないけれど嬉しくなってしまいます、笑。

A:ありがとうございます。
設計も内装材もそれ自体が目立つことのないように、と志水さんは心がけてますね。
結果ニュートラルな空間になりますから、どんなものでも受け入れられる懐の深さはあると思います。設計段階では、ここには絵を飾りたいよね、彫刻とか立体でもいいよね、みたいな話はよくしています。

どんなくらしにも対応できるよう、それ自体が主張しすぎることのない素材を選ぶ、志水さんのデザインの懐の深さ。

家を建てるときは生活を変えるチャンス

A:生活空間を変えるってなかなかハードルが高いですけれど、家を建てるタイミングはガラッと変えるチャンスだと思います。
志水さんも私も、その一助になるような仕事を、今までの経験を活かしてできる限りしたいなと思っていますね。

K:生活を変えたいというのは私もそうでした。前のマンションが所有するもので手狭になってしまって、、、。
私はこの家を大好きな古美術や現代アートに囲まれて過ごしたいと思って設計してもらったのだけれど、施主の私たちだけでなく、設計をしてくださった設計士さんも、工務店さんも良いものを作るために、大げさかもしれないけど命懸けてやっているということを感じましたね。だから暮らす私たちも本気で暮らさなきゃと思ってるわ。

A:素晴らしい施主魂。
幸代さんみたいにはっきりとこういう生活がしたいと言葉にできる方は、作り手もよりモチベーションが上がると思いますね。
でも、そういう方ばかりではないので、寄り添いながらそのイメージを探るというのが私の作業だったりもします。

K:ギャラリーのお客様の層は、子育てが一段落して夫婦だけの時間が始まった50代以上の方々が多いの。まだスマホもなかった時代をメインで生きてきた世代、リアルな経験が豊かな方が多くて、お話ししていて楽しいです。そういう会話の中から欲しているものを察して提案するというところ、あきさんの仕事と似ているところあるわね。

A:なるほど。
でも、できたら私は子育て中も良い空間を作ること諦めないでほしいな、と思う。すまいが整っていると気分が良くて、それが明日頑張る原動力になるんですよね。だから投げやりになりそうな時こそ頑張ってほしいなと。

K:うんうん、やはりすまいは生きることのベースね。

本棚にもさりげなくアート。今回のギャラリーの展示は額賀苑子さん。アートを飾るのに美術館のような広いスペースが必要なわけではないのです。


A:すまいを快適にすべく試行錯誤していたせいか、部屋が整うと気持ちが良いというのは、子供たちもよくわかっているみたい。
今では気づいた人がなんとなく部屋を整えてくれるようになったし、急に来客が来るとなると、玄関やリビングをささっと掃除して、片付けをしてくれるので楽ちん。思ってもみなかったところに恩恵がありました、笑。

K:それは良いわねー。
アートをみるという行為もそうだけれど、小さい時からの積み重ねは大事だと思うのね。
作品を大切に扱うことは、自分の生活や生き方に直結してくるし、自分の感想を持つ、それを言語化するというのは全てのことに役に立つわね。
 

普段の生活の中でできること


A:幸代さんのお宅はいつ来ても素敵だけれど、生活の中で使うものはどうやって選んでいるの?

K:欲しいものがあっても安易に買わないということは気をつけているかな。
たとえそれがなくて不便でも、自分がすごく気に入ったものしか買わないようにしている。

A:わかる。最近本当にそうです、私も。

K:あとは良いものを使ってみる、ということ。100円ショップでも売っているけれど、やはりきちんと作られたものは長持ちするし、愛着も湧くでしょ。

お話を伺った日は、こんな器で紅茶をいただきました。


A:本当に。お箸一つとってもそうですよね。
最近、20年以上使っている帽子をメンテナンスに出したところ、お店の人に大事に使ってくれてありがとうございますとお礼を言われました。手入れをしながら長く使っていくって新しいものを買うより満足感があるんですよね。

K:そうねえ、歴史を作っているからなのかしら。
そういう行為の一つ一つが、生き方のベースを作っていくと思うのよね。
最近茶道のお稽古に通い出したのだけれど、茶道も生活もつながっているのだなあと思うのね。きちんとした生活のベースがあってこそ、お茶の世界の理解も深まるのだと。

A:そうですね。茶道を学んでいるからには、茶人として生きなさいと私も先生に言われます。
私がお茶の世界が好きなのはリアルなところですね。お稽古の和室に入ったら携帯はNGで、写真も動画も撮れない、でもだから感覚で感じられることが多い気がするの。

K:百聞は一見にしかず、よね。

A:ものを選ぶ理由が「インスタで見て素敵だから」というのは、住宅に関わっているものとしてはちょっと怖いんですよね。
例えば家具、実際に靴を脱いで座った時の感覚は体験してみないとわからない、洋服なら着替えられますけれど、家具や設備機器はずっと使うもので、リアルを体験せずに買うにはリスクが高い。
志水さんがよく「北欧家具は名作も多くて憧れるけれど、日本の住空間や、日本人の体型には大きすぎることも多いから、気をつけて選ばないと」と言ってます。

K:なるほど。アートもまず実際見て、その作品の持つパワーを感じてもらうことに意味があります。
どんなにバーチャルな社会が発達しても、生活はリアルで出来ていて、私たちはリアルからは離られない。
すまいってまさにその集約で、リアルの塊なのよね。だから面白いし、反面、頭で思い描いたようにできないという方がいる理由もわかる気がします。リアルなくらしをどう素敵にしたらいいのかわからない時には、ぜひ相談して欲しいなあ、と思います。

A:本当に。
最後にまとめてくれてありがとうございます。今日はとても面白かった、またこの続きを我が家のご飯会でしましょうー。

K:いいわね、美味しいワイン持ってくわ。


関連記事一覧