日日とのキッチンが出来るまで
今回はオリジナルキッチンのデザイナーである、LITTLEの美和小織さんとの対談です。
A:美和さん、こんにちは。今日は改めて「日日と」のキッチンが出来るまでのお話をお願いしたくて。お時間取っていただきありがとうございました。
私たちのことを簡単に説明します。
私たち夫婦は築26年の中古の家に似合うキッチンを作ろうと、キッチンメーカーを巡ったり、家具屋さんにお話を聞いたりしていたんですがどうも思うようなものが無いし、決め手に欠けている状態が続いていました。
いよいよリフォーム工事の期日が迫り、キッチンの水回りや電気の設備工事が目前というタイミングになったところで、友人の旦那様にSOSを出したんです。とにかく形にしてくれる人を紹介してください!って。
そうしたら、空間全体をみることができるデザイナーがいるから紹介しますよということで、出会ったのが美和さんでした。
M:そう、私もご紹介で初めて亜紀さんご夫婦にお会いしました。
オリジナルキッチンを作るのに充分なリクエスト
A:私、偶然その直前のカーサブルータスで美和さんの自邸が特集されているのを見ていて、素敵な空間だなあ、と眺めていたんです。まさかそのご本人が来るなんてとびっくりしつつ会いました。
で、顔合わせがそのまま初めての打ち合わせになったんですよね。これが、もう私の中では生涯でそうそう無いだろうと思える濃い内容の打ち合わせでした。
M:そうですか?笑。会って話を少ししたら課題が明解になったので、まずは要素を整理して道筋をつけましょう、と。
A:はい、リビングダイニングの図面にトレーシングペーパーを重ねて、もう立ち上がっている水栓や動かせない火元などの位置をプロットして、あとはうちにある家具の大きさをその場で測ってそれも入れていって、残った部分にどうキッチンを配置するか、通路幅はどうするか?とかどんどん決めていきましたよね。うちの家具にチェリーの素材感が多いのを見て、キッチンの素材もチェリーにしましょうね!と一言でまとめてくれましたよねえ。
M:経験的に、こういう打ち合わせはご家族が揃った時に、その場でどうしたいかを引き出しながら決めて行ったほうが答えが出やすいと思うんです。
A:確かに、勉強になります。私たちもあとで決めてくださいって言われたらまた迷い出してしまったかもしれないです。ちょっと夫婦で険悪になりながら。
M:綿密に打合せた内容が振り出しに戻るのは、週末の家族会議で意見が割れてしまった時なんですよね。
A:ああ、想像つきます。目に見える形でその場で決めていくって大事ですね。私も打ち合わせにはトレーシングペーパー持参しよう、、。
M:亜紀さんたちは作りたいものは明解で、問題があるから解決したいという意図もわかりやすかったので、なるほど!と思うことが多かったですよ。
例えば、、、鎌倉は湿度が高いので鍋を扉の中にしまいたくない、自分以外の人が料理するときに困らないように何がどこにあるか一目瞭然にしたい、食器をしまう時に扉を開けたり閉めたりが大変なので食器棚の扉は無くて良い、とか。
鎌倉での暮らし方、家族構成、デザインへのこだわりと、オリジナルキッチンを作るのに充分なリクエストだなあと感じました。
問題を解きながら形や素材を選んでいく
A:美和さんと話していると、混沌としていたことが整理され、こういう問題にはこう対処していきましょう、という答えが明らかになっていったのは本当に目の前に道が開けてくるような感じがしました。
私たちでは知り得ない素材なども提案してくれて、それがすごくしっくり来るんですよね。
天板はピカピカしたクオーツストーン系の素材は違うなという意識は自分たちにもあったけれど、じゃ、マットな大理石にするか、タイル的な素材にするかという壁にぶつかっていたら、モルタル風の塗料モラートを使うことを提案してくれて、さすが!!となりました。
M:それは私が日々デザインしている、商業空間の設計手順に通じるところがあるのかもしれませんね。店舗の設計は既に床と天井があって、条件の中でいかに作るか、また耐久性や使い勝手など、問題を解きながら形や素材を選んでいくんです。
設計をしながら、答えを探しに行くのは大切なことですし、特に好きな工程です。
誰も出したことのない解があるなら、自分がそれを追いたい!
A:なるほど、笑。ブレないその姿勢が私の安心感につながったんだと思います。お任せしよう、と思いました。
会津家の日常がデザインに
M:設計を始める前に、引っ越し前のお宅を拝見して、キッチンの使い方を見せていただきました。天井から沢山の鍋を吊るしていましたよね、これには驚きました。
今回もその沢山の鍋は扉の中にしまうのではなく、吊るすことになりました。ただし先行していた建築工事では壁面・天井に下地の用意がありません。ならば空間に吊るすのではなく、家具に吊るしてしまおうという事になり、アイランドキッチンの裏側にできるデットスペースに鍋を吊るすための仕組みを作りました。
A:これ、すごく良い。便利ですよー、食洗機から出した少し水滴がついた鍋も掛けておけば乾いちゃいますし、頭に鍋がぶつかる心配もない、笑。
M: 吊り鍋のアイデアは、私からは到底出せないことでした。
店舗だと、鍋・食器類は扉のついた棚にしまわなくてはならないという保健所の決まりがありますし、考えたことがなかった。これこそが会津家の日常をデザインした部分なんです。
A:食器に埃がつきませんか?と言われるけれど、うちは家族も多いのでアイランドキッチンの棚にある大体の食器が常にフル稼働、あんまり埃を気にしたことはないです。棚板の埃は時々はたきでパタパタして、たまに全部食器を出して拭き掃除する程度。それよりも扉を開ける、閉めるというワンアクションがないことの方がストレスフリー!
このキッチンの詳細を詰める時にも、どうすればストレスなく作業ができるか、今よく見かけるキッチンにはどんな問題があるか、そんな話ばかり二人でしていましたよね。
理想のキッチンは〜みたいなキラキラしたような話は皆無でしたよね。
お互い仕事や家事や子育てやらで忙しいので、キッチンは手間をかけずに片付いていて欲しいんですよね。料理は好きだけど、片付けに時間をかけるのはムダとか、ゴミ箱をシンク下にしまうのは不潔な感じがして嫌いとか、嫌いのポイントが似ていたのも安心しました。好きなポイントは理解してもらいやすいけど、嫌いなポイントの共有って少し大変なので。
水回りには機能が詰まっているから
M:キッチンには設備(電気・ガス・水道)や調理器具といった機能が詰まっていますし、そこに人が集まって作業をしますよね。お風呂や洗面所もそう。私は良くプログラムされた水まわりってその空間の要になるように思うんですよね。清潔で、無駄がなく、適材適所で作業がしやすい、そんな水まわりが作りたいんです。
A:うーん、確かに。住宅のプランでもキッチンとお風呂場と洗面所の関係が美しいと、決まってるなあと感心させられます。美和さんの作る洗面所とか見てみたいですねえ。私が雑誌で見た自邸の空間は素晴らしかったけれど、普段は住宅はやられないんですよね。
M:商業空間に比べると多くはないですね。
亜紀さんとの会話であらためて気づいたのですが、私は個人的な誰か一人のために答えを出すことより、普遍的な答えを探しに行くことが好きなようです。会津家のキッチンはご夫妻の要望を取り入れつつ、私なりの普遍的な回答をしたんだと思います。
A:だからこんなふうに皆様にご紹介したい、使ってもらいたい!となるようなデザインのキッチンが生まれたんですねえ。すごく納得。棚板の厚みや柱の太さなど、美和さんの中では考え抜いてくれたんだろうなあ、と感じます。私は日常の中でぼんやりとこのキッチンを眺めるのが好きなんです、ああ、こんな風に影が映り込むんだ、とか、経年変化していく存在そのものが可愛いなあとか。
美和さんに普遍的な水場デザインをもっと色々考えてもらえるように、頑張ってキッチンを売ろう、と思ってます。
あ、最近はフィンランドのお仕事をしてるって伺いましたが、どんなお仕事なんですか?
M:ラップランドにある既存の建物を、アーティストのための滞在型レジデンスにしようという計画です。長期滞在して、製作して、併設のギャラリーで展示できるような。
A:すごいなあ、国際的なお仕事。コロナもだんだん落ち着いてくるでしょうし、また海外出張とかも行けますね、楽しみですね。
M:フィンランドの施設はどなたでも泊まれるので、ぜひ会津ファミリーも来てくださいね。
A:行きたいですね。私はこのキッチン製作を通して、やはりデザインに関わる仕事をしたいなと思うようになったんですよね。良いデザインは暮らしを豊かに楽しくしてくれるって伝えたい、私は絵は描けないけれど、それを伝えることはできるんじゃないかなって。そういう思いがこのようなキッチンや住宅を作る会社を立ち上げるきっかけになったんです。
そのきっかけをいただいて感謝しています。これからも末長くよろしくお願いします。
M:こちらこそです。
A:はい。本当に今日はありがとうございました。