つぶやくふたり

talk about housing

志水龍(以下S):亜紀さん、すまいの居心地について何か思うことはありますか?

会津亜紀 (以下A):はい、うちは2年前に8年間住んだマンションから中古の一戸建てに引っ越しまして、、3人の子供たちもだいぶ大きくなり、すまいの居心地について10年前とは違う感覚を持つようになりまし た。

S:おー、どんなことですか?

A:子供が小さいうちは、一つの部屋で色々完結するのが便利だなあと思っていました。遊びも食事も勉強もリビングで完結していれば目が届くので、家族みんなにとって居心地の良いリビングを作ることが大事だと思っていました。でも、子供のいる生活って10年もするとすっかり変わるんですよね。

S:そうですねー。今はどんな感じですか?

A:みんなそれぞれの好きな場所があるように感じます。
高校生の長男は自分の部屋のインテリアをいつも試行錯誤していますし、次男はリビングで長い時間過ごしてます。娘はピアノのある部屋にいる時間が多く、夫はキッチン、私は庭か庭が見える窓の近くにいるのが好きです。

S:それぞれに自分を確認できる居場所があるんでしょうね。

A:そうかもしれないですねえ。リビングで家族みんなで同じ行動をする時期は意外と短いですよね。家族の在り方って本当にどんどん変化するなあというのを実感中です。 子供が自立してくると、それぞれ自分の居場所があるとことが居心地の良い住まいの基本なんじゃないかな、と思ったりします。

S:子供だけでなく、大人たちも変化しますよね。子育てが一段落したお父さんお母さんがそれぞれ新しい趣味を始めたり、歳をとったおばあちゃんを呼び寄せたりするかもしれない。

A:確かに旦那さんが釣りと料理を始めたとか、テレワークが進んで自宅がオフィスになったというような変化の話は聞きますね。 私自身も、着物やお茶に興味が移りつつあります。これだけ家族の在宅時間が増えた今ですと、お互い好きなことをやりつつ、食事時などには集まるというのが普段の感じとしては心地よかったりします。

S:変化というのは大なり小なりある、と考えた方が良いと思いますね。僕は設計時にパーフェクトな図面を作ることよりも、住まい手の変化を受け止めるようなおおらかさをもった家を作りたいと思うんですよね。設計時に家の壁や設備も移動できる配慮をしておくと、その後の変化にも対応しやすいです。

A:おおらかな家、私も同感です。私自身が地方の農家の出身で、家の土間に井戸とかまどのお風呂があるような住宅で育ちましたので、あまり細かいことを気にしないでのびのび育って来ました。有り難かったな、と今になって思います。

S:そうでしたね。育った環境は亜紀さんにどんな影響を与えましたかね?

A:育った環境のせいかは分かりませんが、、
イベントやアクティビティはすごく少ない田舎に育ちましたので、日々の生活をどう楽しむか?みたいなことはよく考えていた気がします。工作をしたり、植物の種を植えてみたり、虫を飼ってみたり、笑。
今も日常生活が一番重要だと思いますね。日常の生活で何かを我慢して、それを発散するためにバカンスをとか、特にあんまり思いませんねえ。
自分で料理した美味しいものを食べ、家事をしたり、庭仕事したり、そんな普通の生活の繰り返しが快適であることが一番好きです。

S:ハレではなくて、日々のケを重要視するっていうことかなと思います。これからの生活ってそういったことがどんどん主流になっていくと思いません?

A:確かにコロナ禍で外に出たくても出られない時間が長くなり、さまざまな価値観が変わりましたよね。今ある生活を大切に過ごそう、そして過ごしてみたら意外に快適だった、という方はたくさんいるのだと思います。
郊外の広い家に住みたいと移住する気持ちもわかる気がします。

S:広い家に住まなくても、おおらかで快適な毎日の居場所づくりはできると僕は思っていますよ。家のあちこちに小さな居場所になるようなスポットがあればいいんです。 お母さんとお子さんが階段に座って本が読めたり、寝室だけど好きなお酒をゆっくり飲めるバーみたいな場所を一部つくるとかね。場所っていくつもの意味を持たせた方が空間が重層的な深みを持つような気がしませんか?

A:確かに、、、。消費を楽しむ暮らし方から、誰もが日常の暮らしを楽しむ、そんな変化が社会規模で起こっているとすると、家の居心地ってすごく大事なものになりますよね。

S:そうです。少し前までは成功の証として見栄えのする家を建てることが格好良い、という向きもありました。でもこれからはふだんの暮らしを豊かに快適にする家を建てるのが素敵だ、という考え方が主流になると思います。
その流れの中で、僕らの考える快適な温熱環境や高い安全性という性能が、豊かなくらしを作る一助になるはずです。

A:環境や景観に配慮した佇まいのすまい、その中に豊かな日常がある。素敵ですね。すまい手の品の良さを感じる、居心地の良いすまいを作りたいですね。

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