つぶやくふたり

talk about housing

S:亜紀さん、2022年の10月から長期優良住宅の基準が変更されるって知ってますか?

A:いいえ、知りませんでした。どんな内容なのですか?

S:いくつか改正点はありますが、断熱性能がUA値0.87W/㎡・Kから0.6W/㎡・Kへ引き上げられます。災害へのリスク配慮がなされて災害危険地域に建てる家は長期優良住宅の認定が受けられなくなりました。また、壁量計算で耐震等級が2または3となっていたものが、耐震等級3へかわります。

A:今までの長期優良住宅の基準は随分甘いというか、時代にそぐわない部分もあったので、変更されるのは良いことですよね。

S:技術も進歩して、大きな住宅メーカーがその基準を満たせるようになったから改変されるんでしょうね。

A:あらら、また辛口な、笑。今回は耐震について詳しく聞いてみたいなと思っています。

S:その前に「建築基準法ってなんだ?」ということを少しおさらいしますね。この法律は戦後すぐの昭和25年にできました。焼け野原の都市に大量の家が必要になって、質より量でたくさんの建物が供給された時代です。

第一条は「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」です。

建築基準法ができた当初は、耐震については、最低限震度5程度の地震に耐えられるように設計すべきとされ、その後1981年に新耐震基準ができて震度6−7程度の地震に耐えられるようにと変更されました。

A:1981年以降にできた耐震等級1の家というのはこの性能を満たしているということになるのですね。

S:そうです。ただそもそもが最低限の基準である建築基準法で、「地震に耐えられる」というのは「建物はすぐには倒壊しない、逃げる時間が確保できて、人の命は守られる」という意味です。

A:建物に住み続けられるかは別問題ということですね?

S:実際、2016年の熊本地震では震度7の地震が2回続けて起きたので、1回目では倒壊を免れていた家も2回目の震度7で倒壊したり、立て続けに起きる震度6レベルの地震で大きな修繕が必要になりました。

A:避難所から家に戻っていたところで2回目の地震の被害にあったしまった人や、家に怖くて入れずに車中泊をしてエコノミー症候群になったという人の様子がニュースで流れていたのを覚えています。できたら避難所ではなく、災害時も自宅で過ごしたいです。

S:大きな地震が数年に1度は、日本各地で起きる現在、建築基準法の最低限の基準を守っているだけではリスクもある、ということです。

ちなみに、耐震等級2は耐震等級1の1.25倍の強度、耐震等級は1.5倍の強度で作ります。

A:熊本地震の2度の震度7でも、耐震等級3の住宅は一棟も倒れなかったのですよね。安全な耐震等級3を取ろうと思ったら、まずは構造計算をすると思うのですが、この流れを教えてください。

S:僕は構造計算をしてくれる事務所にお願いして、許容応力度計算をしてもらいます。

A:許容応力度計算、、、言葉ではよく見かけるのですが。

S:全ての柱や梁、一本一本に地震力や荷重がどうかかるかを計算して、それぞれの部位がその力に耐えられるかどうかを検証する計算です。

A:むむむ、具体的に資料ってありますか?

S:これが構造計算の事務所から提出される資料です。僕が最近手がけている物件は延床面積が広いので500ページ以上になります。普通の30坪くらいの家だと400ページくらいかな?

A:400?500? そんなにあるんですか!知らなかったー。

S:結構なボリュームなんですよ。

A:図面を渡して計算してこの資料を作ってもらうだけじゃなくて、ここから意匠とどう整合性をとっていくかというやりとりもかなりですよね。

S:お察しの通りです。構造計算事務所に言われた通りにしか作らない、という設計士さんもいるようですが、僕は構造的に安全かつ、意匠も重視しているので、照明をどう美しく収めるかとか、家のプロポーションのバランスをどうとるか?といったいうやりとりを何度もします。

A:安全だけれど、要塞みたいな家に住むのはあんまりテンション上がらないですもんね。
お客様が構造計算のために支払う金額は数十万程度に設定されていることが多いですけれど、そういうやりとりも含めた費用と考えると、高くない気もします。

S:僕もそう思いますね。

A:私は構造計算といえば、壁の量を計算するような簡易なものを想像していたのですが、こんなに緻密に計算していたとは、、恐れ入りましたという気分です。

S:一般的には、壁量計算という簡易な方法があって、これが建築基準法で定められた計算方法ではありますが、安全性の面から許容応力度計算をすることをお勧めしますね。

A:いわゆる大量に家を作るハウスメーカーもこの計算を一棟一棟やっているんですか?

S:大量生産のハウスメーカーの場合、型式認定という制度で耐震等級3をクリアしているところも多いです。使っている素材や構造が工場生産の段階でお墨付きをもらっているので、面倒な構造計算をする必要がなくなります。
ただ、型式認定の場合、ややもすると設計の自由度は下がりがちです。また構造計算書のような詳細な資料が作成されていないので、リフォームなどをする場合は、情報を持っている同じハウスメーカーに頼む流れになるのが普通ですね。

A:そうか、ハウスメーカーの画一的な間取りはそこに由来しているというのもあるのですね。

S:はい。大きな決まりごとのもとでプランするので、1つ1つの家でのカスタマイズはしづらいですね。

木造住宅の構造計算にはいくつか種類があります。壁量計算、型式認定、許容応力度計算、僕が以前に働いていたSE工法の会社では鉄骨造やRC造と同じやり方で構造計算をしていたりもします。普通のサイズの木造2階建ての住宅なら、許容応力度計算が安全かつ値段も手頃で、設計の自由度もあって良いとは思いますね。

A:なるほど。いろいろわかってきました。許容応力度計算によって設計の自由度と安全性がきちんと担保されるということですね。素朴な疑問なのですが、今までのご経験で、耐震等級3を取ろうとして構造計算をしたら、大幅な設計変更になってしまった!みたいなことはありましたか。

S:うーん、それほど大きな設計変更は僕の場合ないかなあ。耐震性能を上げるためにはバランスよく家を作るということろに尽きるので、そこは普段の設計から気をつけてますしね。

A:うーん、なるほど。奇をてらわない、オーソドックスな形がやっぱり一番なんですね、深いです。そして、家づくりって本当に多くの方が関わっているというのを実感しました。構造設計の方にも今度お話を聞いてみたくなりました。

S:建築の中で、僕は家づくりをやっていますが、一人では一生かかっても勉強しきれないくらい新しい情報がアップデートされています。ですから、それぞれの専門家の方と連絡を密にして、常に新しい知識や知恵を共有していくことが大切だ、と思いますね。家作りはチームでやっていくものなんです。

A:いいですねー、家づくりはチーム!今日もありがとうございました。

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