つぶやくふたり

talk about housing

鎌倉市西御門I邸完成イメージ

高性能住宅を作る技術

A:志水さん、今日は前回の続きで、I邸の現場見学会の見どころ、性能編ということでお話ししていきたいと思っています。

S:はい、前回はどちらかというとデザイン寄りの話でしたもんね。性能の話をする前に、僕らが加盟している新住協(新木造住宅技術研究協議会)という団体について少しご説明した方がいいかなと思います。
新住協は日本の住宅性能の向上を目指す民間の研究機関で、1980年に発足しています。

A:40年前、だいぶ歴史がありますね。

S:発足したのはちょうどオイルショックのころですね。この団体の「省エネルギーで快適なすまいを作る」という研究は本当に画期的で、現在の高性能住宅の考え方のスタンダードになっています。新住協には今でも工務店、設計士などが800社以上が加盟して、勉強会が開催されています。技術は全てオープンにされているので、僕も長年、この団体の勉強会でたくさんのことを学びましたし、横のつながりもできました。

A:新住協のネットワークが広くて深いことを、実際に見学会などに行くと感じます。
I邸もこの技術を使って設計、施工されてますね。

S:はい。この団体の住宅性能計算ソフトを使って、今回の仕様でどれくらいの冷暖房エネルギーがかかるかをシミュレーションしたものがこれです。
UA値(外皮平均熱貫流率:外皮を介して住宅内部の熱がどれくらい逃げやすいかを示す数値)は0.38。

HEAT20のグレードで言うとG2以上、G3未満。一般的にG2.5という数値ですね。
もちろんこれはあくまで計算上の話ではありますが、こういうものがあるということはお客様の安心材料になるかな、とは思いますね。

A:ここまで詳しく計算してあるのですね。

S:施主さんが個人の場合、性能の話や施工に関することを全て理解するのはかなり難しいと思います。この部分は、長年の研究を基にして確立した技術があるので、安心して任せて欲しいな、と思います。
例えばI邸と国の省エネ基準適合住宅の熱損失を比べてみます。

A:国の基準の省エネ基準適合住宅は、2016年に制定された省エネ住宅の基準ですけど、世界レベルと比較すると非常に低いと言われています。義務化もされていない。2025年から義務化されますが。
そんな住宅と比べてUA値はほぼ半分ですね。それだけ熱が逃げないということですね。その中でも開口部である窓の熱損失の差が大きいですね。

窓の重要性とそのほか性能に関すること

S:前回のコラムでも触れたように、今回は大きな窓が多いのでその性能をどうするか、は非常に重要な課題でした。方角を考えてトリプルガラスの窓を入れたり、隙間ができやすい引き違い窓をなくして、fix窓と滑り出し窓の組み合わせにしたこと、などで家全体の性能の向上に貢献しました。

A:窓の打ち合わせに時間がかかった理由がわかります。ここまで窓にこだわった家を作るのは珍しいのですか。

S:一般的にはないと思います。太陽の動きを考えずに全部トリプルガラスにすることはよくあります。お施主さんだけでなく工務店さんでも、そこまで詳しく窓の性能を知らないのが現実です。
あと、予算オーバーだから窓のスペックを落としましょう、みたいな話も現実には存在すると思います。予算は限られていますが、その中で性能をいかに担保するか、お施主さんと我々の優先順位が合致しているからできることだと思いますね。
長くなるので、それ以外の見どころはポイントのみを並べますね。

ー断熱材
吹き込み式のロックウール。密度は60kg/m3。マットのロックウールやグラスウールと比べると価格は上がりますが、隙間なく施工でき、沈下の心配も少なく、長期間の性能維持が期待できます。

ー屋根断熱は吹き込みロックウールとネオマフォーム
熱気球を想像するとわかるように、暖かい空気は上に上がっていきますので、冬の室内の熱が外に逃げないようにする必要があり、屋根の断熱性能は重要です。
屋根の断熱には、先ほどの吹き込みロックウール180ミリに加えて、60ミリのネオマフォームを重ねました。ネオマフォームはロックウールのおよそ倍の断熱効果を持っています。

ー可変調湿気密シート
ドイツのウルト社の気密シートを導入しました。高い気密性能と耐久性だけでなく、シート付近の湿度が高くなりすぎると、湿度を通す可変調湿機能を持っているので、鎌倉のように梅雨や夏の湿度が非常に高い地域では、夏型結露(逆転結露)にとても効果があります。壁の中の結露を防ぐことで建物の耐久性が高くなります。

ー換気は第3種ダクト式換気
今回の家はしっかり断熱気密性能を確保したので、第3種ダクト式換気にしました。
第1種換気方式で熱交換換気をする方法もありますが、鎌倉ぐらい温暖な気候の場所であれば、外気が直接室内に入ることになっても、問題はないと考えています。第3種ダクト式換気は導入コストもリーズナブルで、メンテナンスも容易です。(換気の話は過去のコラムで3回に分けて話してます。)

ーおひさまエコキュートと太陽光発電
おひさまエコキュートは2022年に発売された新しいタイプのエコキュートです。従来のエコキュートのように深夜電力でお湯を沸かすのではなく、昼間の太陽光発電の電力でお湯を沸かします。昼間に作った電力は売電することが多いですが、おひさまエコキュートを導入すると昼間の発電を自家消費に使うことになるので、電気代の高騰などの影響を受けにくくなります。また、お湯の貯湯時間が短いのでエネルギーロスは大幅に削減できます。

A:I邸、性能もなかなか盛りだくさんですよね。

S:今僕が考えられるベストな技術を全て盛り込んだと思います。お任せしていただいたお施主さんには感謝です。もちろん性能だけの机上の空論ではダメだと思ってますよ、良い家というのは数値では測れないと思います。

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