私たちが設計に入る前に行いたいこと
A:こんにちは。
今日はいざ設計を始める前に私たちがお客様と行っていることについてお話ししてみようかと思っています。
S:そうですね。設計士にすまい作りをお願いしたことがある人の方がきっと少ないですからね。
A:私たちに設計を依頼予定で、まだ土地が見つかっていないお客様などとは特に、定期的に色々なお話をする機会を設けています。このことについて志水さんからご説明いただけますか?
S:はい。
僕たちは家を作っていますが、家を作るということは、その先のくらしを作るということに他ならないと思うんですよね。くらしに対する考え方というのは人ぞれぞれで、その部分は簡単な質疑応答などではなかなか拾い上げられないことが多いです。
たとえばどのようなキッチンが欲しいですか?と質問したとします。お客様は食洗機が欲しい、アイランドキッチンがいい、などとご自身が知っている情報を伝えるにとどまってしまうんです。
僕らはもっと深く、なぜ食洗機が欲しいのか?、アイランドキッチンでどのようなくらし方をしたいのかを知る必要があるんですよね。
A:なるほど。一つの事象の裏に、どのようなくらしを思い描いているかキャッチしていくことが大事なんですね。家族みんなで料理をするからアイランドキッチンで、というのはくらし方そのものですよね。もし食事を作るのが誰か1人であるならば、クローズドなキッチンにして、料理以外の家事も合間にできてしまうような方が、気が楽かもしれないですね。
個人的に、食洗機やアイランドキッチンなど、今もてはやされている住宅の設備も長所短所があるので、実際使ってきた者としてきちんと本音で説明したいなと思いますね。
S:亜紀さんの、「私はこう思う」っていう経験値に基づいた話は僕にはなかなか知り得ない、ならではの視点があるなあ、と思います。
A:我が家では便利に使っている海外製食洗機にもデメリットはあります。
作家さんの器などデリケートな陶器などは洗えませんし、食器を入れたら2時間くらい洗っていますので、少量の食器を使い回したい家庭には不向きな気がします。キッチンは結構雑然としがちなので、全てが見える化されているアイランドキッチンなどは片付けが大変かもしれません。家族それぞれがキッチンの雑然さをどのくらい許容できるかなどは家族で話し合った方がいいですよね。
S:奥さんは雑然としていても気にしないけど、旦那さんがそれが気になって仕方がないとか、ありますよね、笑。
A:それ、どこのうちの話でしょうかね、笑。
先日お客様とお話しした洗濯物を乾かすガス乾燥機を入れるか入れないか問題も結構興味深かったです。乾燥機で乾かせるもの、乾かすとあまりよくないものってやはりありますよね。
S:高熱に弱い化繊系は傷むのでお勧めされてないですよね。バスタオルとかは短時間で乾きふわふわになるそうです。コットンの洋服類は若干の縮みは出るでしょうねえ。
A:乾燥機にかけたら小さくなる前提で、あえてワンサイズ上を買うという話を聞いたことがあります。個人的にはお気に入りの洋服は乾燥機にはかけたくないので、うちの場合はほとんど乾燥機で乾かせる洋服がなくなってしまいました。
バスタオルに関しては使う家庭、使わないでフェイスタオルで済ます家庭、毎日洗うか洗わないかなど、それぞれで結構違いますね。
ガス乾燥機を導入したいなあ、と思っていたお客様もよく話してみたらバスタオルはほとんど使わない派でしたので、今は必要ないのかもね、という結論に落ち着きましたよね。
S:いざという時に設置できるように、配管だけ用意しておけば十分ですよね。お子さんが成長したら、運動部の大量のタオルが出るなどということも起こり得ますからね。
A:洗濯に関して言えば、高性能住宅なら洗濯物は部屋干しでも構わないと思いつつ、天気が良い日はシーツなどは外で干したいと思うのも自然な感情だと思うんですよね。紫外線で消えるシミ汚れなんかもありますし。
S:そう、そういう方には室内干しスペースとバルコニーには外干しスペースも用意してあげたいです。細かな部分ですけど、設計士がかなり知りたいところだったりするんですよ。
A:ふむふむ。あと、これは鎌倉ならではだと思うんですけれど、食料などのストックが結構多いということも感じますね。
買い物が決して便利な地域ではないので、宅配を頼んでいる家庭が多いです。宅配って箱やら段ボールやら結構場所を取るものがありますよね。
ここ数年は特に台風があると被害が大きく、停電もずいぶん頻繁に聞くようになったせいか、水や食料の備蓄は結構気にされている方が多い印象です。
S:僕は比較的便利の良い京都市内に住んでいるので、その辺り違うなあ、と思いましたね。お話を聞いていると最低半畳程度のストックルームはキッチンの近くなどにつけたいですね。
外にも宅配などの箱を置いたり、泥のついた野菜などを一時的に置けるような場所も最初に計画しておきたいですね。
A:志水さんの設計って、外物置が家の裏ではなくて、玄関の近くにうまく収まっていますよね。これ絶対使いやすいだろうなあ、といつも思っています。
S:なんなら物置の中にコンセントを設置して、小さな冷蔵庫を置くことだって出来ますよ、笑。BBQとか好きな方には便利ですよね。
会話をしながら、日々の何気ない事柄をきちんと明らかにして整理すると、そこにはお客様のくらしに対する考え方の軸となるようなものが見えてくるんですよ。
A:そうなんですね。先日お借りした吉村順三の本の中で、吉村順三と弟子の宮脇檀が対談していて「住宅を生かす細やかな配慮」について語っていました。細かい配慮のためには、すまう人のくらし方をじっくりと見つめる優しさのようなものが大事なのかもしれませんね。
この間、不動産屋さんと話していて驚いたことなのですが、土地の購入と建物建築費のために銀行ローンを組んだとすると、1年以内に建物完成まで漕ぎ着けるというのが通例なんですね。フラット35の場合だと、1年以内に完成して住み始めていないと再契約となるそうです。
1年間で全てを行うのは大変です。限られた打ち合わせの回数で、どれだけ色々な話ができるのかが鍵となってきますね。
S:そうですね。土地のローン返済はすぐに始まってしまいますから、皆さま結構急ぎますよね。
土地が決まる前からお話しをさせていただくメリットは、なんでも話しやすい関係性を事前にお客様と築きやすいこと、いざ土地が見つかった時には今までの話をもとに、よりそのご家族に合ったくらしの器としての家を設計しやすくなるというところにあります。
A:なるほどねえ。家づくりを考えている方はぜひ時間をかけてくらしについて考えていただきたいですね。