高性能住宅が本当に良い家か?
A:こんにちは。
「今回は高性能住宅が本当に良い家か?というお題で話してみよう」と志水さんから提案いただいたのですが、最初その話を聞いた時、えー、そんな話題で話せるの?というのが私の印象でした。家の勉強をしてくると、高気密高断熱な高性能住宅が良い家という結論に落ち着いてきているのに、そこに切り込んでいくの?というのが本音のところです。
S:笑。良い家の条件って何だろう?という話だと思いますね。家のスペックも大事ですけれど、住む場所だったり、周りの環境や景色、そして気候だったりも含めて考えないと、良い家にはならないでしょう?
A:ええ、まあ確かにそうですよね。高性能な住宅っていうのは、一年中快適な室温が保たれ、光熱費があまりかからず、長持ちする家ということだと思うんですけれど、特に一年中快適というのが今までの家との大きな違いとして強調されますよね。個人的に高性能住宅を建てるのが今の所の最適解なのかな、とは思うのですけれど、あえて皮肉めいた視点で見てみると、本当に毎日が快適で良いのだろうか?と思ったりはします。
S:一年中快適な室温って最初は贅沢なんだけれど、慣れるとありがたみを感じなくなる、とは言いますよね。外気がどんなであっても室内は一定なので、外に出るまで外の様子には気がつかない、とかね。
A:体験談で、家から出なくなると読んだことがあります。窓も外気に影響されるのが勿体無いから開けなくなるとか。そうなの?それって楽しいのかな?と思ったことはあります。
私自身は、窓を開けて、ああ、春っぽい匂いがしてきたなあ、とか、金木犀が香ってるなあ、とか、そういうのが楽しみだったりするので。
S:外に出ない、窓を開けなくなるのは結構よく聞く話ですね。
僕は真冬真夏の快適性さえ保ってくれるなら、中間期は住む人それぞれが好きにしたらいいんじゃないの、と思います。本当に高性能な住宅なら少しの間窓を開けっぱなしにしていても、閉めたらまたすぐに元の快適な室温に戻るはずなんです。
A:高性能な住宅だから、窓を閉め切ることが良いのではなくて、どうやったらもっと生活が楽しめるだろうかとか、快適さを試行錯誤するのは大事なことなんじゃないかなあ、と思っています。
S:快適さというのも曖昧な定義なんですよね。例えば冬の暖房、エアコンは温風が直接当たって不快だったりするけれど、感じ方も人それぞれ。直接風が当たるのを回避するために床下エアコンというのはある訳なんですけれど、やっぱり乾燥はします。
A:低性能なスペックの我が家でも冬は湿度計が50%を切ってくると乾燥感が出てきます。高性能住宅はもっと乾燥するので大変だなと思いますね。
S:湿度計50%でも、室温15℃前後の空気中に含まれる水分量は、30℃前後の空気中に含まれる水分量とは違いますからね、普通の家はもちろん、高性能住宅だとさらに乾燥感は出てくると思います。日常生活で工夫が必要になってくるところですよね。
A:うちは夜、浴槽にお湯を入れたままにして、室内側のドアを開けてますが、どの程度効いているのかなあ?
S:湿度に数パーセントの影響は与えているはずですよ。洗濯物の部屋干しなんかも効果があるとされてますね。乾燥の具合ひとつとっても、快適さとは誰にとっての快適さか?というのはよく考えた方がいいと思いますね、とても個人差がある話なので。
A:例えば女性は乾燥に敏感だけれど、男性はあまり感じないとか?
S:そうですね。そういう個人差もお客様に聞き込みをきちんとして、その家に住む人にとっての快適さを実現していくべきなんだと思いますよ。性能を上げることは良いことだとは思いますが、そればかり追求するのではなくてね。
A:暑がりな人、寒がりな人もいますし、お年寄りと若者でも体感温度は違いますね。真冬も薄着で生活したいんだという人と、冬なんだからニットやハイネックの服を楽しみたいと言う人もいて、それぞれにとって快適な室温も変わってきますもんね。
S:そう、だから丁寧に話を聞いて、その家に合った暖房器具の選定をしなくてはいけないですよね。湿度何%になると結露しやすいから、窓のスペックはどれくらいにして家を作ろうとか、住んだあと湿度をコントロールする方法も、住まい手自身が知って、使いこなしていくようにならないといけない。
窓の下側に結露がつきだすと、壁の中でも同じような現象が起こりうる可能性がありますので、このサインは見逃さないようにしたいですね。そして、何よりも壁の中に結露を起こさないためには、気密をしっかり行うことが大事です。断熱性能が長期優良住宅程度であっても、気密がしっかり取れていればまずまず暖かいはずです。
A:家自体は断熱性能が高くて暖かいけれど、冬でもよくカビる、といった話を聞いたこともあります。これも気密のせいですよね。
S:そうです、外の冷たい空気が隙間から入り込んでしまい、中の暖かい空気との温度差で結露するんですよね。例えば、ハウスメーカーの家は大体が気密がきちんと取れてないんですよ。優先順位から考えると、気密がとれていなければ、いくら断熱が高性能になっても意味が無いことになりかねないんです。気密が取れていなければ、せっかく入れた断熱材は悪さをする方向になりかねないですからね。
A:昔ながらの断熱材なしのスカスカの家の方が家自体は長持ちするということになりかねないですね。
S:そうですね。本当に気密は大事です。ここが欠けていては他の性能が担保されない。
A:気密がしっかりしているかって、施主からは見えにくいけれど、気密検査をお願いしますね、といえばいいんですかね?
S:そうです、そうです、そこは絶対です。僕でも気密検査は30棟か40棟ぐらいはしたと思います。必ず施工中と施工後の2回するんですよ。なぜかというと最後に調べてもどこを直したらいいかわからないんですよ、壁を剥がすわけにもいかないし。もちろん施工中の方が気密の値は悪くなるのですが、そこでチェックして塞いで直すんです。
予算があまりない場合でも、気密だけはしっかりやっていると長期優良住宅の断熱レベルでも断熱材がちゃんと効きます。また気密がしっかりしている分、壁体内結露(壁の中にできる結露)の起きるリスクも低くなるので、家の寿命も長くなります。
今回のお題でコラムをやりましょうと言ったのは、予算がないからといって高性能じゃないダメな家しか出来ないのではなく、例えばG2、G3グレード(長期優良住宅よりも性能の高いグレード)までお金をかけられない場合でも気密はしっかりやるとか、あとは、どうしても入れたいものや優先したいものがあった場合には、気密だけはきちんとすることをお勧めしたいんです。そういうメリハリが大事だと思います。
A:ウッドショックもあって家を建てることが以前よりもお金がかかる事態になってきている今、この大事なポイントは知っておいた方が良いですね。家の性能にもそれぞれ優先順位があるんだと。
そう、一度志水さんに聞いてみたいと思っていたことがあるんです。昔ながらの伝統工法を使って作る新築の家を見かけることがあるんですけれど、これはどう考えていますか?
S:土壁などを使った家ですよね。素敵だな、とは思いますね。僕も好きですし町家などで関わるのでそのような工法について研究したこともあります。
でもねえ、今の僕がその家に住むか?と言われたらどうなんでしょうね。もし本当に昔ながらの工法で作られていて、断熱材などケミカルなものが使われてないとしたら、それは冬は寒いですよ、やっぱり。
そもそも、伝統工法って家全体のバランスで成立しているんです。例えば、茅葺き屋根が分厚い断熱材の代わりをしています。でも現代では火事の問題があるので茅葺をすることは難しいので、全てを同じバランスで再現するのはなかなか大変なんです。
A:そうか、部屋の内部も、昔と同じ素材や間取りであれば成り立つけれど、今風のインテリアで今の暮らし方をしようとすると無理があるんでしょうね。そもそも炊事場は別棟になっていたりしていて、湿度も室内に回らないからカビなども生えにくかったりするわけですよね。
S:それもありますね。そもそも今の家とは桁違いに隙間があったはずなので風通しが良くてカビは生えなかったはずです、寒いですけれど、笑。
A:そういう家に長く住めるか?っていうのはよく考えた方がいいですよね。若い時はいいけれど、年老いてから住めなくなるのではね。
S:特に最近、痴呆とかの問題を見ていると、身体性ってすごく大事だと思うんですね。適当に動かないと、筋力も脳も衰えるそうですし。そういう観点からいうとバリアフリーなんてどうなんでしょうね。
それよりも日常的に動けるような室温、隅々まで快適な室温、湿度が保たれていることの方が重要そうです。
とは言いつつ、我が家は冬の暖房は石油ストーブなんです。その上でお餅を焼いて、お醤油をつけて食べるのがすごく楽しくて。これが冬の楽しみだといってもいいくらい、笑。
床下エアコンの高性能住宅になったらこの楽しみは諦めなくちゃならないのか?といったらそうでは無いと思うんですよ。
例えば換気計画をきちんとした上で囲炉裏的な要素を一角に作るということは十分できます。例えそのせいで室温が数℃下がったとしても、それはその住まい手が納得していればいいわけです。
G2、G3の断熱性能を追い求めることよりも、大事なことは住まい手がそこに住んで幸せか、楽しいか、そういうことなんだと思うんですよね。
そしてそれを設計士に遠慮なく伝えることの方が、スペックについて伝えるより大事なんです。
A:なるほどねえ、今はYouTubeなどで家の勉強が出来て、スペックが数字で表されているので、まじめにそれを追いかけがちですけれど、家の本質はそこでは無いですよね。高性能住宅を多く建てられてきた志水さんだから見えてくる景色があるんでしょうね。
ちなみに、昔ながらの石油ストーブは私も好きな暖房器具です、出来たらキッチンストーブをいれるのが夢ですね。暖炉より実用的で楽しいと思うので。そういう感覚は大事にしておいたほうがよさそうですね。
S:そうですね、それを実現するのが設計士の仕事なのでね。
A:今日もありがとうございました。