実はとても大事な換気のおはなし 2 換気の本当の目的は?
S:空気清浄という観点で話をすると、空気清浄機があるから換気は気にしなくて大丈夫、という話も出たりするかと。空気清浄機と換気システムについて、教えてください。
H:空気清浄機と、換気システムで言う空気清浄は違う次元の話をしていると思いますね。
換気でいう空気清浄の話は『希釈』を基本の考え方にしています。
室内のCO2濃度を1000ppm以下にしないといけないという国の指針に従って、一定時間室内にあった汚染空気を外に出し、その分新鮮な空気を入れる。すると良好な空気環境が保全されることになります。
空気清浄機は外の空気を入れたりしませんし、CO2濃度などは関係なく、基本は室内にある空気を掻き回して、その中にある臭いの原因となる物質や、ハウスダスト、花粉といった粒子をキャッチしたりフィルタリングするという考え方。
現時点での気密のしっかりした高性能な住宅を建てて、良質の換気システムを導入すれば、家そのもの自体が空気清浄機と考えて僕は良いと思っていますね。
A:高性能住宅に住むと、花粉症なども感じにくくなると聞いたことがあります。
実家が高性能住宅なのですが、父母が花粉症で辛いと言う話、最近聞いてないなあ、と思いました。
H:そう言うことはあり得ると思いますね。
S:空気清浄機の空気清浄は『排臭』の一端を担っているくらいの考え方をしておいた方がいいんですかね。『排湿』は…?
H:『排湿』は余分な水蒸気を排出するという意味で、『除湿』ではありません。換気システムのグレードによって室内の湿度をある程度安定させることはできても、湿度を取り除くまでは換気ではできません。
亜紀さんが言われていたカビを繁殖させないレベルの『除湿』を換気のみで行うのは難しく、空調機械の力を借りないと無理です。これがエアコンによる『除湿』という機能です。
A:そっか『排湿』と『除湿』では取り除く水分量のレベルが違うんですね。ヨーロッパに比べて日本の夏は高湿ですしねえ。
S:夏の空気清浄は換気で行い、取り込んだ湿度の高い空気はエアコンで除湿していくのが良いという考え方ですね。
H:そうです。取り込む外気の影響を受けやすい室内の湿度は、機械で強制的に除湿するのがベストです。
良いことだらけの高性能住宅の換気システムですが、一旦止まってしまうと、一気に室内の空気が悪くなるという状態になるというリスクは常にあります。停電が長く続くとダクトの中の汚れもひどくなりますから、リスクが高い地域では、室内の空気の流れを止めないように太陽光パネルや蓄電池を用意する、ガソリンで動く発電機を用意するというような対策は必要かと思います。
A:なるほど。ほんの一時的な停電なら窓開け換気でしのげますけど、台風などで数日続いたこともありましたら、その辺りは検討しておかないとですね。
停電は別として、高性能住宅では換気システムを人の手でオンオフする必要ありましたっけ?
S:今はないですけど、一昔前のシステムにはオンオフがついていたりしましたよ。
H:そうでしたね。
あと一つユーザー側の心構えとして、重要なことがあります。高性能住宅の換気システムでは掃除をしたり、フィルターを取り替えたりという小まめなメンテナンスが必要になります。
スウェーデンの換気システムは、目詰まりを起こさないような仕組みのフィルターもあります。ユーザーがメンテナンスを少し怠ったとしても、換気がストップしてしまうようなことにはなりません。
もしフィルターが目詰まりをして換気が止まってしまうと、室内の空気環境は一気に汚染されてしまいます。フィルターで空気清浄をすることも大事ですが、それよりも換気の機能を止めない仕組みであることの方が大事です。いずれにしてもメンテナンスは必須です。
A:ずっと掃除をしない、というのはそもそも問題外ということですね。
H:そうですねえ、笑。
24時間365日人が気づかない程度に動いていて、多少ケアを怠っても換気が動き続けるというのが、スウェーデン式換気システムの良さだと思いますね。そしてメンテナンスに関しては、手入れをしながら良いものを長く使うというヨーロッパの考え方の合理的な部分ですよね。
S:なるほどねえ。
H:第1種、第3種換気のメリットデメリットを話し出すと時間が足りないので、都度聞いてください。
とにかく換気本来の目的は何か?という大前提を揺るがさずに考えれば、その家に合った換気システムが自ずと導かれるとは思います。
次に第1種換気システムの熱交換換気について少し深掘りしていきますね。
熱交換換気システムには顕熱(けんねつ)のみを交換する顕熱方式と、顕熱と潜熱(せんねつ)を合わせたものを交換する全熱交換方式の2つがあります。
A:難しくなってきましたね。
H:顕熱は表面にある温度のこと、潜熱は空気中の水蒸気に含まれるの熱です。顕熱方式だと排気するときに温度だけ室内の空気に戻します。全熱交換方式だと温度と湿度を室内の空気に戻します。ここまでは理解できます?
A:はい、なんとかついていってます。
H:昔から言われている全熱交換のリスクとして、水蒸気に溶け込んだ臭いや汚染物質が水蒸気を介して室内に戻ってしまうというものがあります現在は熱交換素子(機械の中で熱交換をする部分)の進化で、そのようなことも少なくはなっているとは思いますが。。。
A:勝手なイメージですけど、水分を含んだ空気を吸収していたら、機械の内部はなんだか汚くなりそうだな、と思います。
H:ほぼその印象は間違っていないと思いますよ。以前は熱交換素子の素材に紙が使われていた製品もあり、メンテナンスを怠るとカビで真っ黒という事例が見られました。
A:それは困りますね。
H:現在、住宅市場で採用されている第一種換気はほぼ全熱交換方式です。なぜかというと熱交換効率の方にクローズアップされているからなんです。
A:えー。そうなんだ。「暖かい室温を外に出してないよ、無駄なく交換しているよ、省エネだよ」ということは売りになりますしね。
H:空気の質の話よりよりもね。
S:あと、全熱交換の方が過乾燥になりにくいとは言われていますよね。温度と一緒に湿度も室内に戻せるので、高性能住宅で起こりがちな冬場の過乾燥がひどくはない。
A:過乾燥を防ぐのはメリットですね。ただ、機械にカビがついたりするかもしれない、、と。
H:そう、カビ問題はメンテナンスすることに尽きるんですけれどね。
今は機械の熱交換素子に紙素材が使われている製品は少なく、定期的な洗浄が必要な樹脂や、洗浄が必要ない金属製などのものが出てきています。
A:樹脂の場合、洗浄の頻度は半年に1度くらい?
H:日本のメーカーのものには特に清掃を必須としているように書かれていないことも多いです。ヨーロッパの素子メーカーのマニュアルを見てください。
A:once a year って書いてある!年一回でいいんですね。
H:そう、そして大型食洗機のようなものにどーんと入れてよく洗うように、とも書いてあるんです。海外の換気システムが日常生活に入り込んでいるという表れだと思うんですよね。
高性能な換気システムを導入すればするほどメンテナンスは本当にしっかり考えなければならないんですけれど、日本では天井の中に入れてしまったりするような事例もまだあります。
A:空気の質はアレルギーの問題などとかなり深く関わっていますよね。メンテナンスを怠ったらカビだらけの空気を撒き散らすことにもなりかねない。
H:商品価格やメンテナンスの頻度や価格も考えて、第1種換気を導入して熱交換換気を行うメリットはあるのか、それはユーザー側で判断してくしかないですね。
A :なるほど。ところで、最近ヨーロッパの国では第1種換気が多く導入されていると聞きましたが、これは寒いからという考え方で良いんですかね?
H:それもあります。ただベースは建物の性能が非常に高くて、これ以上熱損失を小さくすることを追求するためには、換気による排気や排水に含まれる熱をも回収するというところまで来ているんですよね。
A:行くとこまで行っているから、、、と。
H:そうですね。スウェーデンでも第1種換気に移行したのはわりと最近のことです。世界的な兆候でゼロエネルギーハウスが主流になり、技術開発も進み、こなれた価格で洗練された商品になってきたので普及しはじめたという感じです。
A:なるほどねー。世界的には第1種なのですね。
S:ただ、日本製の第1種換気システムで、メンテナンス部分が明確になっている機種がとても少ないのですよね。
H:そうなんです、曖昧さを残した製品も多いのが現実です。
とにかく第1種換気はメンテが肝だということを理解して、フィルター交換はどれくらいの頻度で行うか、モーター交換はどれくらいで行うか、ユーザー側できちんと計画を立てておくことが大事かと思いますね。
A:床や壁などの目に見える天然素材のメンテナンスをするように、空気の質を維持するためのメンテナンスをするということですね。
なかなかすぐには理解し難い部分ではありますけれど、これらをスウェーデン本国の人は普通にやっているんですよね。
H:スウェーデンの人と話すと、「換気システムってそういうものでしょ?」と言って当然のようにメンテナンスをしていますね。もうDNAレベルで新鮮な空気を得るために必要なことを理解されているんだなあ、と思いますよ。
A:建てて終わりではなくて、家のメンテナンスを楽しみながら愛着を持って行う、という気持ちが必要なんですね。
S:行き当たりばったりにならないよう、長期のメンテナンス計画を立てるって大事ですよね。
(次回に続きます)