つぶやくふたり

talk about housing

A:志水さん、ではI邸、前回の続きからお願いします。I邸の土地は埋蔵文化財包蔵地にかかっていました。

S:そうですね。この辺りのことも地元の設計士さんにお手伝いいただきました。
埋蔵文化財包蔵地の場合、新たに家を建てる場合、地盤調査をしなければなりません。この地盤調査というのが厄介で、市に依頼して行うものは予約でいつも一杯で順番待ちをすることになります。

A:1年半以上待つこともあるそうですね。
そんなには待てない場合は自分で業者さんに頼むことになりますが、どの業者さんも手一杯で、予約を停止していることなどあるようです。

S:京都もそんな感じですよ。

A:調査費用自体は公費(鎌倉市の場合、調査後の申請で補助金が出ます)でまかなわれますけれど、土地を買ってから1年近くも何も手をつけられないというのは痛いですよね。

S:ですので、できるだけその調査にかからないように建物側での工夫が必要となります。

A:今回はどのようにしたのですか?

S:深さ30センチ未満の掘削で出土したものは埋蔵文化財の調査範囲には当たらない、ということなので、現状の敷地に土を盛ってグランドレベルを上げて、深くまで掘っても大丈夫なように計画しました。

A:なるほど。これで埋蔵文化財の調査にかからないということになったのですね。

次はプランニングのことについて伺いたいと思います。

S:この敷地はそれほど大きくなかったので、建てる建物の大きさは自ずと決まってきます。
建物面積が広ければ、1階にリビングダイニングをおいて、吹き抜けから光を取り込むという考え方もできますが、今回は吹き抜けをつくると建物面積が狭くなってしまいます。
2階をリビングにするというのは、土地を購入する前からお施主さんと話し合っていました。

あとは東西南北の特徴を生かしつつ、長所を取り入れ、短所を消していくという作業です。

A:東ー借景になりそうな林の斜面
  西ー道路に面していて抜けがあり、斜向かいにある大きな木や遠くの山を見ることができる
  南ー境界まで隣家が迫っている
  北ー境界まで隣家が迫っている

という状況です。

S:東西の景色を長所として考え、南北の景色は短所として消す、というソフト面と、冬の太陽エネルギーを取り入れるために南からの日射を取得する、というハード面の両立が大事だと考えました。

A:今回、太陽光パネルを取り付ける前提だったので、建物の高さも大事になりますよね。

S:南側の建物が迫っているが視界に取りれたくないのと、太陽光パネルをつけるために、建物の高さを風致地区の基準ギリギリまであげて、ハイサイド窓で光だけ取り入れれるようにプランニングしました。
でもよく考えてみれば、太陽光パネルをつけなくても、南側に建物が建っていなくても僕は最終的にこうプランニングしたと思います。

A:そうなんですね、どうしてですか?

S:例えば太陽光パネルをつけないのであれば、南側の屋根傾斜を緩やかにする方法や、南側から北へ片流れ屋根にする方法もありました。
でも、傾斜が緩やかだと水勾配の問題も出てきますし、片流れの屋根はこの家の場合少しバランスが良くないように思います。

南側の隣地は、例え今は空いていたとしても、そこが住宅地なら僕はそのことを念頭に置いて設計するようにしています。

A:確かに、未来に起こるかもしれないことを先回りして考えておくことも設計の力ですね。
空き地や駐車場だったお隣に家が建って日が当たらなくなった、という話は聞いたことがあります。
住宅地である限り、そういうことは起こり得る話ですからね。

S:風致地区、北側斜線、日射取得、太陽光パネル、窓から見える景色、2階をリビングしにて豊かな空間にする、という幾つもの要素を掛け合わせて出てきたのが、このプランと階高のある2階空間だと思います。

2階は高さを生かした大空間

A:クリアしたい要素は盛りだくさんでした。

S:ですね。あと、玄関の位置もプランニングのポイントですね。

A:そうなんですか?

S:今回延べ床面積が大きくないので、動線を短くするために建物の南の真ん中を玄関にしました。廊下部分を極力少なくしたわけです。

A:ああ、そうか。確かにそうですね。もし道路側に玄関があったら、奥に行くために長い廊下が必要になりますね。

S:スペースが広ければ、1階全てをLDKにして廊下を作るといったプランも素敵なんですけれどね。今回1階は個室をおくことになっていましたから。

A:なるほどー。

その敷地にあったプランづくりを丁寧にできるのが、設計士さんと家を建てることの醍醐味ですね。

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